朝、教室につくと私は必ず本を開く。一番後ろの窓際の席、そこで黙々と自分の世界に浸るのが私の習慣だ。
といっても、昨日まで夏休みだったせいでその習慣とやらは今日から再開することになるのだけど。
夏休みが終わったとはいえ季節はまだまだ夏だ。湿気を帯びた蒸し暑い風が煩わしい。
どうもこの季節は好きになれない。暑いし虫がたくさん出てくるから。それに、あまりいい思い出がない。
目線を本に落としている間、教室ではクラスメイトたちがそれぞれの休暇について語り合っていた。私の席にまで聞こえてくるほど大きな声。久々に会った友人たちに夏の思い出を話したくて仕方がないといった感じ。
彼女たちの口から出てくるのは海に行ったり、彼氏と夏祭りに行ったり、そんな楽しげな話ばかり。
彼氏もいなければ誰かと遊びに行く予定もなかった私からすれば、充実している彼女たちは少しばかり眩しい。
もっとも、だからといって恋人や友人を作ろうとは思わないけれど。
……だって私には見えてしまうから。
本を閉じ、和気あいあいと話し込んでいる彼女たちに視線を移す。注視するのは顔でもなければ体でもない。彼女たちの頭上。

『つまんないなぁ。こいつの話いつまで続くんだろう』

――目に飛び込んできたそれは、まぎれもなく彼女たちの心の声だった。