ミイラ取りがミイラになったような、結局は私の方がやり込められた。

 目標ができると、それに向かって努力しようとするように、私はリュウゴにまんまと乗せられているだけじゃないだろうか。

 でも目の前にニンジンをぶら下げられた馬のように私はそれに向かおうとしている。

 カップを手にし、すっかり冷めてしまったカモミールティを私は飲み干す。

 その時ふと思った。

 もしかしたら、リュウゴは私のような自殺願望のある人たちを何人も助けているんじゃないだろうか。

 それはあまりにも奇妙なやりとりだけど、手馴れているように思えてならない。

「もしかして、他にも私のような人を助けたりしたんですか?」

 その質問をしたとき、コーヒーカップを持ち上げようとするリュウゴの手が止まった。

 そして過去を思い出すように悲しげな目になった。

「助ける? さあどうだろう。自殺を止めたのは君が初めてだけど、君のように僕を気に入ってくれた人がいたのは確かだ」

 リュウゴの女性関係。

 なんだか聞きたくない。

 でも怖いもの見たさでその先を訊かずにはいられない。

「彼女がいるんですか?」

「うん、今はね」

 手に持っていたカップを口元に引き寄せ、リュウゴはコーヒーを静かに飲む。

 落ち着いているリュウゴとは反対に私は穏やかではなくなった。

「そんな、彼女がいるのに私をくどこうとしたんですか?」

 果たしてそんな言い方が正しかったのだろうか。

 リュウゴはただ私を元気つけようと話を面白おかしく話していただけじゃないだろうか。

 それを私が勝手に舞い上がってしまった。

 私は黙り込みうつむいた。

 分かりやすいほどまだまだ子供だ。

 悔しくて、悲しくて簡単に落ち込んだ。

「それがもうすぐ別れるんだ」

「えっ?」

 一喜一憂で、私は期待するように顔を上げてしまう。

「彼女は僕と別れて遠くへ行ってしまうんだ。もうこれは決まってることなんだ」

「でも遠距離とかもあるじゃないですか。本当に別れるつもりなんですか?」

「あれ? 君は僕を応援しているの?」

 別れるなといっているわけではなかった。

 ただそういう選択もあるかなというくらいだった。

 好き同士なら離れたくらいで終わらないと思っただけだ。

 私は確かめたかった、リュウゴの本気度を。

「好きなら追いかけることもできるし……」

 語尾がごにょごにょとしてしまう。

 本当はそんな事思ってない。