緩やかな坂道は緩やかなカーブを左右に繰り返し、次第に登っているのか降っているのかが分からなくなってくる。それにしても、前にも後ろにも人がいない。誰ともすれ違わない。どうしてなんだ? そんなことを三人が同時に感じ、無言で戸惑いの視線を交わし始めていると、なんだかエンケンの前方から光が感じられた。雄太が異世界のドアを開けた時に感じた背後の賑やかさと、楽器の演奏が微かに感じられる。
 あんたたちも演るんだろ? ここに来て演らないっていう選択肢は、きっとあんたたちにはないだろうからな。
 一度立ち止まったエンケンは、身体ごと向き直り、そう言った。そして、両手を広げ、ようこそ! なんて叫んだんだ。その瞬間、エンケンの背後の光が白く輝き、ドカンッと打ち上げ花火のような爆音が響いた。その後はそれまでの演奏が止み、静けさに包まれた。白い輝きも、次第に黒く染まっていく。
 あんたちは歓迎されている。はやいところ演っちまいな!
 僕たちはなぜだかそれが当然だというように、エンケンの脇を通り過ぎ、その先へと足を進めた。なぜだか広げていたエンケンの手にタッチをしながら。
 再び暗くなった道の先は、ステージの裏側へと繋がっていた。暗闇の中に小さな光が点在していて、観客の騒めきが聞こえてくる。僕たちを待っている? 自然と興奮が高まる。今でもそうだけど、この時の緊張感が好きなんだ。
 ステージに立った僕たちは、それぞれの楽器を準備した。真っ暗な中での準備だけど、観客の視線が飛んでくるのを感じていた。興奮が高まっていく。緊張感は少しもなかった。注目される中での演奏は初めてだった。三人での普段のライブはまだまだ人気がなく、誰も僕たちを心待ちにはしていなかった。
 それぞれの準備が終わった僕たちは、無言でアイコンタクト交わした。いくぞ! と三人が同時に心で叫んだ。
 するとステージ上が明るくなった。真っ白な明かりが僕たち三人を照らし出す。そして僕たちの演奏が始まると、赤白黄色に青が混じる明かりが目まぐるしく僕たちを照らす。グルグル回る照明。僕の頭が回る。目も回る。身体も回る。演奏も回り出す。僕たちの気分はハイになり、気分が高揚する。
 最高の瞬間が始まったと、僕たちは感じていた。