車で移動をすること五分間は、周りの景色に変化がなかった。しかし、五分が過ぎると突然前方になにかの大きな塊が見えてきた。
あれはなに? 思わず口にした僕の平凡な問いかけに、エンケンはバックミラー越しに僕を見つめて答えた。あれがこの世界のジャングルだ! ってね。
モヤのように見えていたその大きな塊は次第にその姿を露わにしながら近づき広がっていく。そしていつの間にか、薄いブルーの車が飲み込まれいく。モヤという都会の中に。
そこは僕たちの知る都会とは少し違っていた。SF映画のようだと言ってしまうことも出来るけれど、それは観る映画によってだいぶイメージが変わってしまうから適当な表現ではない。大きな建物は意外と少ないけれど、その密集度が凄まじい。その世界の人口の全てが集まっているんじゃないかと思えるほどだった。実際に後から知ったんだけど、ほとんど全ての人がその都会で暮らしているという。別の場所で暮らす者も、家にいない時は都会に集まる。
まぁ、ここがこの世界の全てのような者だ。ここから出て外の世界を冒険する輩もいるが、あまりお勧めはできないな。まぁロックスターには必要のない冒険だしな。なんてことをエンケンは車を建物の脇に止めながら言った。
さて、ちょっくら街を歩こうじゃないか。エンケンはそう言うと、車を鍵をつけたそのままにして歩き始めた。荷物は忘れるなよと、大声を出す。僕たちは慌てて鍵のかかっていないラゲッジからそれぞれの荷物を取り出した。
路駐はマズイんじゃない? なんて言葉をドラムセットを背負いながら昭夫が呟く。鍵だって付けっぱじゃん。と雄太が呟く。
問題ないんだな、この世界では。エンケンはそう言いながら、振り返って背後の車に顎を向ける。アイツらが片付けてくれるんだよ。
エンケンがそう言った後すぐに振り返った僕たちの目に、アイツらは映らなかった。そこにあるはずの車も見えない。
まぁそのうち、ここに馴染むだろうよ! 今は慣れるだけで充分だ。
先を急ぐにように歩くエンケンについて行くのがやっとで、街並みを堪能する余裕がなかった。後になっての新発見も、この時すでにすれ違っていた。この世界は、一見して奇妙な世界なんだと知った。
しかしこの時は、横浜や東京とさして変わらないじゃんかと思っていた。異世界って言うから期待してたのにと、誰にも聞こえないように悪態を吐く。
僕たちの世界で流行っている異世界は、決まって中世をモデルにしている。正直つまらない。中世じゃないものもあるけれど、なんだか僕には、単純な憧れを妄想しているようにしか感じられない。異世界といっても、結局のところは想定の範囲内でしか物語は進んでいかない。
僕たちだって似たようなものではあるけれど、少なくともここには中世の雰囲気は漂っていない。六十年代と未来がごちゃ混ぜになっているような、九十年代的というか、SF映画っぽいとも言えるけれど、今までの想像とは数歩ズレた世界観に満ちている。
例えばだけれど、異世界には幼い子供の姿がない。恋愛に関する匂いが極端に少なく、どこぞの老夫婦も見かけないし、若奥様も登場しない。男女のペアはいても、それは単なる友達やら仕事仲間でしかない。
とは言っても、僕たちのような別の世界から紛れ込んで来た輩が絡むと話は変わる。実際に雄太は異世界で恋をしているし、僕は秘密裏に結婚をしている。昭夫は異世界ではモテモテで、恋される側になっている。
あんたたちに見て欲しい場所があるんだ。エンケンはそう言い、一つの建物の中に足を踏み入れた。見た目は古ぼけたビルのようでもあり、日本のお城のようでもある。見ようによってはウサギ小屋にも見える。エンケンはその建物の地下へ行くと言いながら、緩やかな坂道を登っていく。ここからがあんたたちの本番だよ。なんて言葉が背中越しから聞こえてきたけれど、その意味は分からなかった。
あれはなに? 思わず口にした僕の平凡な問いかけに、エンケンはバックミラー越しに僕を見つめて答えた。あれがこの世界のジャングルだ! ってね。
モヤのように見えていたその大きな塊は次第にその姿を露わにしながら近づき広がっていく。そしていつの間にか、薄いブルーの車が飲み込まれいく。モヤという都会の中に。
そこは僕たちの知る都会とは少し違っていた。SF映画のようだと言ってしまうことも出来るけれど、それは観る映画によってだいぶイメージが変わってしまうから適当な表現ではない。大きな建物は意外と少ないけれど、その密集度が凄まじい。その世界の人口の全てが集まっているんじゃないかと思えるほどだった。実際に後から知ったんだけど、ほとんど全ての人がその都会で暮らしているという。別の場所で暮らす者も、家にいない時は都会に集まる。
まぁ、ここがこの世界の全てのような者だ。ここから出て外の世界を冒険する輩もいるが、あまりお勧めはできないな。まぁロックスターには必要のない冒険だしな。なんてことをエンケンは車を建物の脇に止めながら言った。
さて、ちょっくら街を歩こうじゃないか。エンケンはそう言うと、車を鍵をつけたそのままにして歩き始めた。荷物は忘れるなよと、大声を出す。僕たちは慌てて鍵のかかっていないラゲッジからそれぞれの荷物を取り出した。
路駐はマズイんじゃない? なんて言葉をドラムセットを背負いながら昭夫が呟く。鍵だって付けっぱじゃん。と雄太が呟く。
問題ないんだな、この世界では。エンケンはそう言いながら、振り返って背後の車に顎を向ける。アイツらが片付けてくれるんだよ。
エンケンがそう言った後すぐに振り返った僕たちの目に、アイツらは映らなかった。そこにあるはずの車も見えない。
まぁそのうち、ここに馴染むだろうよ! 今は慣れるだけで充分だ。
先を急ぐにように歩くエンケンについて行くのがやっとで、街並みを堪能する余裕がなかった。後になっての新発見も、この時すでにすれ違っていた。この世界は、一見して奇妙な世界なんだと知った。
しかしこの時は、横浜や東京とさして変わらないじゃんかと思っていた。異世界って言うから期待してたのにと、誰にも聞こえないように悪態を吐く。
僕たちの世界で流行っている異世界は、決まって中世をモデルにしている。正直つまらない。中世じゃないものもあるけれど、なんだか僕には、単純な憧れを妄想しているようにしか感じられない。異世界といっても、結局のところは想定の範囲内でしか物語は進んでいかない。
僕たちだって似たようなものではあるけれど、少なくともここには中世の雰囲気は漂っていない。六十年代と未来がごちゃ混ぜになっているような、九十年代的というか、SF映画っぽいとも言えるけれど、今までの想像とは数歩ズレた世界観に満ちている。
例えばだけれど、異世界には幼い子供の姿がない。恋愛に関する匂いが極端に少なく、どこぞの老夫婦も見かけないし、若奥様も登場しない。男女のペアはいても、それは単なる友達やら仕事仲間でしかない。
とは言っても、僕たちのような別の世界から紛れ込んで来た輩が絡むと話は変わる。実際に雄太は異世界で恋をしているし、僕は秘密裏に結婚をしている。昭夫は異世界ではモテモテで、恋される側になっている。
あんたたちに見て欲しい場所があるんだ。エンケンはそう言い、一つの建物の中に足を踏み入れた。見た目は古ぼけたビルのようでもあり、日本のお城のようでもある。見ようによってはウサギ小屋にも見える。エンケンはその建物の地下へ行くと言いながら、緩やかな坂道を登っていく。ここからがあんたたちの本番だよ。なんて言葉が背中越しから聞こえてきたけれど、その意味は分からなかった。