こっちへ来てみなと、エンケンが手招きをする。エンケンの背後は、賑やかに感じらてた。暗闇の中に光が走っている。まるでライブハウスのような背景だった。そしていつしか、楽器の演奏が聞こえてきていた。ような気がしただけで、その部屋の外に一歩を踏み出すと、その景色も演奏も消えてしまった。
 そこは月明かりに照らされた夜の大地だった。辺りにはなにもない原野が広がっている。そこにポツンと、いいやその表現はちょっと正しくない。ドカンと建っている大きな建物の一部に、僕たちは入っていたんだ。
 ここには色んな部屋があるんだ。残念ながらオイラの部屋はないんだけどな。ここは色んな世界と繋がっていたり、普通に誰かが暮らしていたり、ライブ会場になったりする。まぁ、面白ハウスってところだ。
 その建物は中学校のような形でそこに建っていた。けれど学校とは違う、外側に多くのドアが付いている。僕たちがいた部屋がどこなのか分からなくなってしまった。五階建てのようで、全ての階にドアがある。外に向かって。上の階へ行くにはどうすればいいのか? なんて疑問を頭に浮かべながらその建物を眺め回していた。
 ドアなんて、意味がないんだよ。そこに入れるかどうかは、その部屋が決めるんだ。言わば部屋が招待をするんだ。あんたたちがその部屋に入れたのも、部屋からの正体があってのことだ。しかしまぁ、よくその取っ手を握れたよな。
 エンケンがそう言うと、雄太は嬉しそうに笑顔を見せた。しかし、その後に続く言葉を聞き、その笑顔が歪む。
 言っておくが、あれは剥製のようではあるけれど、意思を持っているからな。気に食わなければいつでもその手を握り潰してしまうんだ。
 だったら安心だよ。僕がそう言った。あのドアに意思があるってことは、無闇には襲ってこないってことだからね。
 エンケンはほんの少し僕を見つめてから、まぁそうとも言える。なんて言ったよ。