足を踏み入れた途端に、目の前の景色が広がった。足を踏み入れる前には薄ぼやけてしか見えていなかったその景色に色がつくようにパァッとその世界が浮かび上がったかのように感じられる。
 僕は思わず踏み出したその一歩を引いてしまった。
 三人が横並びに足を踏み入れていた。雄太と昭夫がどんな行動を取っているかは分からなかったけれど、きっとそうだとの予感はあった。そうなんだ。三人は同じ反応を見せていた。同時に踏み入れた足を、同時に引き戻していた。
 真ん中にいた僕は、左右を忙しく見回した。雄太も昭夫も、僕と同じように足を引っ込めていた。そして雄太は左を、昭夫は右を向いていた。
 どうする? なんかすっごく楽しそうな場所だったぞ! 三人が同じ内容の言葉を同時に吐き出した。
 その一歩を引いた瞬間にその景色が消えてしまったことに、僕たちはどういうわけか驚かなかった。そういうものだと思っていたんだ。この世界に少しずつだけど馴染んでいたということだよ。
 再び三人揃って足を踏み入れた。広がるその世界は、大浴場のようでもあり、リゾートビーチのようでもあり、図書館のようにも映画館のようにも感じられた。つまりは最高の癒しの空間だったんだ。しかも、巨大なバーの雰囲気も兼ねていた。
 僕は迷わず、本で埋め尽くされている棚が立ち並ぶ一角に近寄ろうとした。
 あなたの趣味はそっちかい? 私はあまり得意じゃないんだよね。文字を見ていると、目がチカチカしちまうんだよ。そう言いながらエイミーが近づいて来た。
 エイミーの服装も僕たちと同じだった。そのサイズが女性用に変わっているだけで、基本的には同デザインだ。エイミーの色は艶無しの黒だった。
 ピチピチの服装は、何故だかいやらしさを少しも感じなかった。身体のラインがくっきりと感じられるけれど、大事な部分は保護されている。赤ん坊の裸以上に自然な姿に感じられた。
 好きな本を選んでからでいいから、こっちに来なよ。こっちでゆっくり話でもしよう。
 エイミーにそんなことを言われ日が来るとは想像もしていなかった。僕はもっとゆっくり本を選びたかったけれど、適当な一冊を手に取り、エイミーが待つ場所に向かった。
 心は急いでいたけれど、足はゆっくりと動かした。時折手に取っていた本に視線を落としながら。
 僕は本が好きだ。その体裁がどうであれ、そこに物語があればそれでよかった。その日手にしていたのは、アメリカの酔っ払い郵便配達員が書いた短編集のような詩集のような日記のようなちょっと意味不明な私的な物語だった。しかもそれは、英語の原文だった。けれど僕には難なくその意味が読み取れた。しかも、日本語としてね。
 不思議な感覚だけれど、英語は英語にしか見えない。だから僕はその文字を目で追いかける。すると僕の頭には日本語が浮かび上がる。文字としてではなく、音としてでもなく、単なる言葉として。
 いい趣味しているじゃない! 僕が手に持っていた本に視線を向けて、エイミーがそう言った。