車を運転するのは昭夫だった。僕たちの中で唯一の免許持ちだ。まぁ、この世界には必要にない免許ではあるんだけれど。
 あなたたちの家は決まってるのよね? というか余所者のロックミュージシャンはあそこって決まってるんだけどね。それより今日は、もっと楽しいとこに連れて行くわよ!
 カナブンを走らせること十分、果てしなく続いているかのような都会を抜け出すことは出来なかった。
 僕は後部座席でずっと、左側の外を眺めていた。本来なら物思いにふけって窓にもたれて景色を眺めていたかったけれど、そうは出来ない事情があった。何故だか誰も助手席には座らず、決して広いとは言えない後部座席に中身はガキンチョでも体格は立派な大人が三人の並んでいた。真ん中にはエイミーがいて、僕はエイミーにそっぽを向くなんて真似は出来なかった。
 エイミー越しの外の世界は、なんとも汚かった。エイミーの存在がそうさせるわけではなく、建物やそこを歩く人の雰囲気が汚いんだ。僕の故郷だって、都市部は汚らしい。テレビなんかでは綺麗な部分しか映さないけれど、現実の目にはその他の方が多く映るんだ。この世界は、案外普通なのかもと感じた。
 街を歩く人々は、みんなが疲れた顔をしている。そして何故だか、年寄りが多い。街を見た感じでは、エイミーは飛び切りの若者だ。
 この世界の建物には特徴がない。まるでレゴブロックのようでもあるし、フランスやソーホーの匂いもするし新宿や明洞の雰囲気も感じる。中国系も混じっているってことは、古き良き日本っぽくもあるってことだ。つまりはベトナムっぽいって言うのが僕の率直な感想だった。
 この世界もね、昔は良かったんだよね。エンケンちゃんのような楽しい大人が多くてね。それがいつの間にか、つまらなくなっちゃったのよ。街の雰囲気もだいぶんと違ってたのよ。なんて言うかさ、私もだけど、感化されちゃうのよね。ロックスターで居続けるのは、難しいのよ。
 エイミーの言葉に、僕は落ち込んだ。エイミーもそうなの? あの頃とは違うの? そんな言葉を飲み込んだ。