浩一郎は新しい秘書を雇い、京香が住んでいたマンションに新しい女を入居させたらしい。

自分よりも若く、学歴のある、女。

つまりは、捨てられた。
それだけ。


「で、どうするんですか?」
「どうもしないわよ。生活費はもらえるし、あのマンションの家賃と水光熱費はパトロン持ちだし、住んでる分には困らないし。今までにもらった生活費はがっつり貯め込んであるし、しばらくは生きていけるし」
「それって立派な愛人では?」
「ううん。新しい女ができたのよ。私はお払い箱なの」


言うなればご隠居愛人。
勤めを終え、第一線から離れたところで余呉を暮らす老人。
好きなことをして、のんびり気ままに時間をつぶすだけ。

それは幸せなことだと信じて疑わなかった。
でも、それは違う。
例え年を重ねても老いぼれでも、女としてもピークを過ぎたとしても、ひととして生きていきたい。女として欲されたい。

お金を与えられるだけでは幸せにはなれないのだ。


「そのまんまでいいんですか?」
「わかんない。今は考えたくない」
「毎日ヒマなんですか?」
「ヒマ」
「じゃあ、このワゴン、手伝ってもらえません? オレひとりでやってるんで休憩どころかトイレもままならないんで」
「なんでアンタの手伝いなんか」
「アンタじゃなくて、森戸です」
「どっちでもいいでしょ?」