私は思い出した記憶を、断片的に漁った。

「……街の中にある、温泉じゃなかったっけ?」

「ああ、そうだっけ?ごめん、どっかの温泉と間違えた。」

「もう~。」

「ごめんごめん。見れば分かるよ。」

賢人は誤魔化すように、ビールを一気に飲み干した。


さっきの時計の事と言い、今の温泉の事と言い、何かが噛み合わない。

私の記憶が間違っているのなら、賢人は“こうじゃなかった?”って、教えてくれるはずだし。

否定しないって事は、少なくても、私の記憶は間違っていないって事?

であれば、なぜ覚えていないの?

それとも、大切な記念日だから、場所や物まで覚えていてほしいって言うのは、女のわがままなのかしら。


益々私は、分からなくなってしまった。


「珠姫。」

賢人に呼ばれ、顔を上げた。