「……だって私、思い出したのは、つい最近だもん。」

その言葉に、賢人は下を向く。

「ごめん……」

「やだ、そんなに気にしないで。」

やっと少しずつ、少しずつ過去を思い出して、賢人との思い出を取り戻してきつつあるって言うのに。

「それに、その時計……探してもないの。どこかで落としたのかも。」

「ちょっとちょっと!自分は、僕よりも酷いんじゃないの?」

「ふふふっ。だから、おあいこ。」

口許を隠して笑った私に釣られ、笑顔になる賢人。

こんな会話も、時計を無くしてしまった事も、賢人との思い出になるなら、楽しくて楽しくて仕方ない。


「また、行きたいね。あの温泉。」

「……うん。」

弱々しい返事。

「賢人?覚えてないの?」

「いや?覚えてるよ。あの山の中にある温泉でしょ?」

「山の中?」