人前で大きな声をあげる事もできず、私はひたすら頭を押さえ続けた。

「お客様、大丈夫ですか?」

私の事態に気づいた店員さんが、側にやって来てくれた。

「もう大丈夫です。」

これ以上、迷惑は掛けられない。

私は、頭を押さえたまま、立ち上がった。


久しぶりの頭痛。

何だったんだろう。

私は、目の前にある棚の中を見て、愕然とした。


“私、これを持っている”

でも、今腕にある時計とは、明らかに違う。

ううん。

絶対、持っている。

しかも、お揃いで買った。

男性用と女性用と。


ゴクンと、息を飲む。

頭を過った、何気ない思い出じゃない。

はっきりと、ありありと、その記憶が甦る。


「お客様?」

ハッとして、私は別な場所を見た。

「すみません。また来ます。」

「はい……」

私はそれだけを言うと、直ぐさま、その時計店を後にした。