「ごめんなさい。息子さんの事、思い出させてしまって……」

「違うのよ、違うの。そりゃあ、少しは思い出したけどね。言葉は悪いけれど、あなたは生きててよかったって。そう言う事。」


なんとなく。

なんとなくだけど、母を思い出した。

そう言えば、母が生きていれば、大家さんと同じ年頃だったかもしれない。

「お互い独り身なんだし。近所なんだし。何たって、家を貸し借りしている仲じゃない?困った時は、お互い様。助け合って生きていきましょう。」

「はい。」

大家さんはそう言うと、また自分の家に戻って行った。


一人じゃない。

また、誰かに心を救われた感じ。


その時、家の時計が鳴った。

「あっ!リハビリの時間!」

私は引きずる足で、部屋に行くと、急いで身支度を整えた。

「間に合うかな。」