誰?

賢人?

暗くて顔が見えない。

「誰?そこにいるのは、誰!?」

幻に向かって手を伸ばす。


「ごめんなさい!勝手に入って!」

目を凝らすと、縁側に通じる大きな窓が開いていて、外に大家さんが立っていた。

「近くを通ったら、人が倒れる音がしたから、慌てて入ってしまって……事故に遭ったって聞いてたし、また何かあったのかと思って……」

年配の女性である大家さんが、オロオロしている。

私は立ち上がって、頭を押さえながら、窓の近くまで行った。

「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫みたいです。」

「そう?ならいいけど、立ちくらみ?それとも貧血?」

「……ええ。」

これ以上、心配掛けたくなくて、そう言う事にしておいた。


「よかった。大した事なくて。」

大家さんは、安心したように、ふうーっと息を吐いた。