「だから、頭が痛いって少し辛いけど……過去の事を思い出す、きっかけになってるんじゃないかな。」


胸の奥が、ジーンときた。

こんな辛い事でさえ、賢人は前向きに考えようと、私に伝えてくれている。

「うん。そうだね。」


朝食を食べ終え、賢人を玄関で見送った。

「じゃあ、行ってくるよ。」

「はーい。」

おきまりの、いってらっしゃいのキス。

それも、いつもと一緒だった。


唇を重ねた瞬間。

昨日と同じ唇の感触なのに、脳裏には違う人の顔が、思い出された。

ハッとして、唇を離す。

「珠姫?」

賢人の顔を見ると、脳裏に浮かんだ人と、同じ顔だ。


どうして?

どうして、違う人だと思うのだろう。


「もしかして、疲れてる?」

「えっ?」

「珠姫は仕事人間だからね。仕事してないと、ストレスになっちゃうのかな。」