「そんな事?」

そんな事と言い退けた賢人に、逆に驚く。


「ねえ、珠姫。結婚ってそんな関係だけじゃないよ。」

「うん。分かる。」

「相手が大変な時に、そんな事求めるなんて。僕は違うと思う。」

「そっか……」

私が賢人から離れると、賢人はわざわざしゃがんで、松葉杖を取ってくれた。


「でも逆の立場だったら、俺の事襲っていいからね。」

「はい?」

「頼むよ、奥さん。」

「もう!またぁ。」

そんな掛け合いをしながら、私達は買い物の為に、家を出た。


「あら。お久しぶりですね。」

塀の外を見ると、この借家の大家さんの手が見えた。

「こんにちは。」

塀の外に出て、挨拶をする。

「今まで顔を見なかったけれど、どこか旅行にでも、行ってたの?」

「実は……ちょっと事故に遭ってしまって、入院していたんです。」