「ご両親の事は、自分で思い出すまで、僕は何も教えないからね。ゆっくりゆっくり、自分のペースで思い出せばいいんだ。」

賢人の言葉は、一見冷たい。

でも、今の私にとっては、とても温かくて、とても有り難いものだった。


「もう休もう。」

賢人は、私を横に寝かせてくれた。

「珠姫。疲れた時には、眠るといいよ。」

「私、疲れてない。」

「疲れてるよ。体じゃなくて、心がね。」

瞬きもしないのに、涙が流れる。

「ゆっくりお休み。今は、そういう時期なんだから。」

賢人が、私の手を握ってくれた。

いつも側に寄り添ってくれる強い力が、私の不安を涙と共に、外へ押し流してくれた。

「珠姫。僕達は、家族になるんだ。珠姫の家族は、これから増えるんだよ。」

「賢人、」

「大丈夫。珠姫が寝るまで、ここを離れないから。」

ニコッと笑う、彼の笑顔に釣られて、私も微笑んだ。