「そっか。そうだよね。」

「そうだよ。これからまた、楽しい記憶を刻み付けていけばいいんじゃない?」

私は、大きく頷いた。


記憶がない事が、あまりにも大きな事だと思い込んでいた私は、目の前にある今さえも、疑っていたのだと、この時思った。

何も、全てを失った訳じゃない。

無くしたモノは、これから少しずつ、取り戻していけばいいのだ。


「そうだ。ちょっと離れてもいい?用事があるんだ。」

「うん、いいよ。」

「すぐ戻るから。」

そう言うと賢人は、走るように病室を出て行った。

どうせ仕事の事なんだろう。

私の看病で、会社に行けない期間、仕事はどうなっているんだろうと、勝手に心配していた。