「賢人の方が大変だって言うのに、私、ワガママばっかり言って。」

「ワガママ?」

「さっきの……賢人は記憶喪失になった事がないから、私の気持ちは分からないって、言った事。」

「そんな事、気にしてたの?」

賢人は怒るどころか、可笑しそうに笑っている。

「珠姫って、どうでもいい事、気にするよね。」

「そうかな。」

「珠姫の言う事も、一理ある。俺、記憶喪失なった事ないから、珠姫の気持ち全然分かんない。」

それまでの賢人とは、見間違える程、優しくないコメント。


「でも、そうやって拗ねるとこ、久々に見た。」

「えっ?」

「記憶が戻らなくても、無意識の部分は、何一つ変わってないんだね。」

その一言が、今の私を嬉しくさせた。