「それにしても、記憶ってそんなに、大事なモノだったんだね。」

何気なく耳に入った、賢人の言葉を、私は聞き逃せなかった。


「だって、記憶喪失にならなくたって、記憶って曖昧になる時があるのに。記憶と違うだけで、そんなに怖がる?記憶違いって事もあるのに。」

私はイラッときて、賢人から体を離した。


「賢人は、自分が記憶喪失になった事がないから、そういう事が言えるのよ。」

「そうだったね、ごめん。」

私の脱いだ病院用のパジャマを、くるくる丸めて、廊下のカゴの中に持って行く賢人。


何やってるんだろ。

賢人は、仕事を休んでまで、私の世話をしてくれているって言うのに。


「ごめん、賢人。」

「何、急に。」

戻ってきた賢人は、ふざけながら驚く振りをしている。