斜め向かいのベッドに入院しているお婆ちゃんが、賢人に話しかけた。

「お婆ちゃん。入院している間だけですよ。」

賢人も冗談混じりに言うから、和やかな雰囲気が漂う。

廊下から戻ってきた賢人は、急いでベッドサイドの椅子に座る。

「さてさて。うちのお姫様のお話を、聞こうではありませんか。」

「ふふふっ。なあに、それ?」

体が痛くてそんなに笑えないけれど、目が覚めてから、賢人に随分、笑わせてもらっている。

「珠姫は、僕のお姫様だからね。名前にだって、“姫”ってついてるでしょ?」

私は少しだけ、体を捻って後ろにある、名札を見た。


【市田 珠姫】


「本当だ。姫って、書いてある。」

「あながち、嘘じゃない。」