はぁはぁと、息を切らした賢人に、目を奪われた。

「過去に囚われるから、目の前の大事な事に、気がつかないんだ。」

「賢人……」

「何度でも言う。僕は、珠姫が好きだ。家族を捨ててでも……珠姫と一緒に……いたい。」


賢人は涙を浮かべながら、私に近づいて来た。

「珠姫は?」

そう聞くと、賢人は私を優しく、抱き寄せた。

「珠姫の気持ち、聞かせて。」

「私は……」

賢人の腕に、そっと手を置いた。

「あなたがいなかったら、事故から立ち直れなかった。」


記憶が無くて、辛かった時も。

身寄りがなくて、一人だと泣いた時も。

いつも、賢人が側にいてくれた。


「記憶を失ったからじゃない。私は……」

「珠姫……」

「賢人の事が、好き。」

そして、私達はしばらくの間、強く強く、お互いを抱き締め合った。