中庭のベンチに座り、ボーッと空を見上げていた時だった。

「珠姫!珠姫、どこだ?」

懐かしい声がした。

「珠姫!いたら、返事をしてくれ!」

私はそれに、応える事ができなかった。

目を閉じて、彼の声が小さくなる事を待った。


「珠姫!」

でも予想は外れて、目の前で息を切らした音が、聞こえた。

「……見つけた。」

私は目を開けた。

「賢人……」

「良人から、全部話は聞いた。」

私は何も言わずに、唇を噛み締めた。

「辛い思いをさせてごめん。僕が全部、責任を取るから!」

「何の責任?」

「珠姫……」

「もう、遅いのよ!何もかも、全て……」

私は立ち上がって、賢人から歩き去った。


「遅くない、珠姫。今から、始めればいいじゃないか。」

「無理よ。私は良人の婚約者だった。それが本当の記憶なの!変えられない事実なの!!」

すると賢人は、私の目の前に走って来た。