「うん。」

良人は、穏やかな表情で、一度だけ頷いた。

「珠姫は、賢人に初めて会った時の事、覚えてる?」

「覚えてる……確か洗車してた。ずっと目を合わせてくれなくて。」

「それ……賢人の、お気に入りのサインなんだ。」

「えっ?」

ちょうど、夕食のお膳を下げる時間になっていたらしく、看護助手の人が、見回っていた。

良人はカレーを少しだけ残して、お膳を渡した。

「賢人はね。昔から、気に入った女の子と、目を合わせないんだ。」

「そうなの?」

「その後も、ふとした時に珠姫の事を聞いてきてね。」


あの不器用な賢人の、不器用な聞き方が、目に浮かんだ。

「俺も、珠姫の事本気で好きだったから、いつしか珠姫との事、賢人に相談してたんだ。」

「私との事を?」