「珠姫さん?」

病室の入り口から、お母さんの声がした。

ハッとして、私達は離れた。

「あら、どこに行ったのかしら。」

私を探しているお母さんの声を聞いて、もう一度賢人の顔を見た。

俯いて、無表情だった彼。

お母さんの元へ行くのか、そのまま留まるのか、私に任せると、暗に言われている気がした。


行けるはずがない。

そんな賢人を置いて、このままどこかへ、行けるはずがない。

私が賢人に、手を伸ばした時だ。

「珠姫さん、ここに居たの?」

お母さんが、待合室にまでやってきた。

「は、はい……」

「良人が呼んでいるの。病室に来てくれる?」

「……分かりました。」

伸ばした手をもて余しながら、待合室を出ようとした。


「あら?賢人も居たの?」

お母さんは、自分の息子なのに、素っ気ない言葉を、賢人に浴びせた。