「賢人?」

「ごめん……ずっと、口に出さないつもりだったのに……」

賢人は私の肩に、顔を埋めた。


肩を濡らす涙が、賢人の物だと気づくのに、数秒もかからなかった。

私達は、この1年の間、過ごすはずのない時間を、共有した。


一緒に笑って、

一緒に怒って、

私が倒れた時には、賢人が側に来て、『大丈夫?』と、声を掛けてくれた。

そう、この1年間。

いつもいつも。


だから、これが良人を裏切るような行為だったとしても、私は振りほどけない。

同じ顔じゃない。

同じ声じゃない。

“津山賢人”と言う、一人の人間と一緒に過ごした時間が、私をそうさせたのだ。


「……珠姫?」

「もう少しだけ、こうしていて。」

「いいの?」

「いいよ。」


私は賢人を、強く抱き締めていた。