私がふらつきながら辿り着いた場所は、入院患者さんが食事を摂るところとして使う、待合室。

そこに窓のサッシに、賢人が座っていた。

私に気づいた賢人は、声を絞り出すように、こう言った。

「……思い出したんだね、何もかも。」

「うん。」

「そうだよ。僕は、珠姫の恋人じゃない。」

賢人の涙が、手に溢れ落ちるのが分かった。


「どうして?」

私は痛む胸を押さえながら、賢人の目の前に立ち尽くした。

「どうして、嘘をついたの?」


同じ顔。

同じ声。

同じ体を持つ、二人の男性。


「騙したの?」

「違う。」

「同じ顔だから?私が記憶喪失だから?騙して、反応を楽しんでいたの?」

「違うよ!」

「じゃあ、何なの!?何が目的なの!?」

賢人とは、唇を噛み締めていた。

「少しでも……珠姫の力になれればって……」