「でも……よかった。珠姫は、無事だったんだね。」

とても小さな声が、私の耳に届く。

「よかった。珠姫を守れて……とても大切な人を守れて、よかった……」

握った手には、誕生日プレゼントに贈ったペアの時計。


そうだ。

私もあの日に、ペアの時計をしていたけれど、事故に遭ってどこかに行ってしまったのだ。


「良人も、きっとよくなるわ。」

「そう……だね……珠姫の為にも……早くよくならなきゃ……」

私を庇って、こんな大怪我をした良人。

そんな人を放っておいて、私は……私は!




記憶がない事をいい事に、

他の人を、婚約者だと間違っていたなんて。

「ごめんなさい。」

私は立ち上がると、良人の病室を飛び出していた。

なんて、愚かなんだろう。

何度も何度も、違うんじゃないかって、私の心の奥が、そう叫んでいたのに。