【主な登場人物】
[ひかる]既出
自称 僕
主人公の青年
本名『五色《ごしき》光《ひかる》』
自称は『僕』。
ヒロインの愛理栖《ありす》の天然な言動へはツッコミを欠かさない。
長野県に住むの新米天文物理学者。
25歳 独身 A型。
長野県の天文観測所で働いている。
有名な科学者五色《ごしき》博士を父に持つ。
母は重い病気で長野市の総合病院に入院中。
母のお見舞のため、たびたび病院に行っている。
◇容姿
顔は中性的で前髪をおろした長めの髪。
背丈は同い歳の男子平均よりは低いが、
痩せているので細くスマートにみえる。
理系で知的な話し方をするが理屈っぽい。
顔や声については当人 曰《いわ》く、
①シスコンで、
②頭のいい眼鏡巨乳好きで、
③現在ドSツンドラ女子と交際していて、
④死んで吸血鬼になっている、
某男子高校生に似ているとかいないとか。
[愛理栖《ありす》]既出
自称 私
ヒロインの女子中学生。
正義感が強く周りの人達みんなの為には努力を惜しまない優しい性格。
たまに天然な言動をしてしまうときがあり、その度にひかるに鋭いツッコミを入れられてしまう。
本名は阿頼耶識《あらやしき》 愛理栖《ありす》。
長い水色の髪と栗色の瞳が特徴的な美少女。
まるでおとぎの国からきた妖精のような不思議な雰囲気《オーラ》を漂わせている。
[空《そら》]new
自称 あたし
写真家。
本名は不明。
山で一人自給自足の生活をしながら大自然をテーマに写真を撮っている。
女性にしては短髪の髪を後ろで結い、
長袖のポロシャツにジーンズに登山靴と、
みるからに登山家を思わせる服装をしている。
正義感が強く、言い訳やズルい事を嫌う
愛理栖のおばさんとはまた別のタイプの男勝りな性格をしている。
—主な登場人物紹介 終わり—
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
神々しく閃光を放つそれは、僕の車のすぐ後ろまで来たかと思うと急におとなしくなった。
きっとその時の僕は、 他人からは喜びのあまり親にすがる幼子のように見えたに違いない。
僕は車から降りるやいなや、はやる気持ちを抑えてそれの元へ一直線に向かった。
すると、中から誰かが顔を覗かせてきた。
「あんた……、 こんな山道で何してんの?」
それに乗っていた女性の顔は暗くてはっきり見えなかったが、
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして驚いていただろうことだけは僕にも理解できた。
「車のタイヤが脱線しちゃいまして。 本当に困ってるんです。
お願いです。 助けてもらえませんか?」
僕は石にでもかじりつくかのような様相で必死にそうお願いした。
「あたしもあんたが進まないと帰れないからね。 脱線した部分見せな」
女性は懐中電灯を取り出し問題の部分を照らした。
「どうです? 引き上げられそうですか?」
「あんたねぇ~、 この車3ナンバー? 車幅的にこんな狭い山道通ること自体無理あるっしょ。しかも後輪駆動だし……」
「すみません。 僕もこんなに道幅が狭くなるなんて思ってなくて……。 それに途中で引き返そうにも一本道だったんで」
「ああ、わかったわかった。あたいは言い訳聞かない。 なった事は仕方ないんだよ」
「JAF……呼びましょうか?」
「いいさ。 どうせここは細い一本道だし。
この落ち方だとどっちにしろあたしのでけん引する事になるからね」
「はあ」
「今は霧も出ていないし、 あたしがバックであんたの車をけん引する。 あたしの車から縄を持ってくる。 あんたも手伝いな」
「もちろん手伝います! どうしたらいいですか?」
「あんたは自分のに乗ってギアをバックにする。 あたしがクラクションで合図したら少しずつアクセルを踏んで。 あたしはバックで少しずつ下がるから。 それでいいね?」
「わかりました」
「私もなにか手伝えませんか? ひかるさんがちゃんとバック出来ているかどうか、 懐中電灯で照らして確認しましょうか?」
「お嬢ちゃんありがとな。 でも暗い中バックする車の後ろにいるのはすごく危険なんだ。 だからあいつの車より前の安全な場所から見ててくれるか?」
「わかりました。 ありがとうございます!」
けん引作業は時間がかかったが、その女性の気転でなんとか無事引き上げる事に成功した。
「助かりました。 ありがとうございます!」
「あたしにお礼なんていいさ。 それよりも、今はまだ夜で視界が悪いから車は明日までここに置いておきな。
いいかい?」
「わかりました。 でもそれではおねえさんも困りませんか?」
「おっ、お姉さんか~! 君なかなか女性の扱い方わかってるね」
女性は最初は不機嫌そうに見えていたがこの一言で少し機嫌がよくなったらしい。
「あたしの家は実は近くにあるんだ。 歩いても行ける距離だから。 しかたないから今日は特別に二人とも泊めてあげる」
「ありがとうございます」
僕と愛理栖は一緒にお礼を言った。
「こっちだよ。 ついてきな」
僕と愛理栖は言われるままに女性の後を黙ってついて行った。
「………………」
「…………? 遠、 大分遠く無いですか?」
「はぁ? 今なんか言った?」
「いえ、何でもないです。 ごめんなさい」
辺り一面、深い深い霧がたちこめていた。
おどろおどろしくフクロウが鳴く霧深い真っ暗な山道を、
僕達は懐中電灯だけで延々と進んでいった。
「それにしてもここ、 うんとしみる~」
僕は身を縮こませ震えていた。
「ここは標高が高いからね」
「なるほど~。
それにしてもあのぅ…。
あと、何分くらいで着くんですか?」
「朝までには着くさ、安心しな!」
「今さらっと凄い事言いいましたよね?」
僕は湧き上がるツッコミを入れたいと思うこの気持ちをなんとかお腹の奥でこらえていた。
一一三時間経過一一
「ハァ~ハァ~」
「ひかるさん、汗いっぱいかいてすごく苦しそう!
大丈夫ですか?」
「そりゃそうさ。だってね、さっきからず~と足場の悪い山道を歩き通しじゃん!
それを、ゼーゼー、こんなに長時間、ハァハァ、歩いたらバテるに決まってるよ・・・。
ん!おや 」
「急に私の方を向いて、どうしたんですか
ひかるさん?」
「なあ、愛理栖?」
「はい?」
「愛理栖は疲れないのか?」
「私は5次元人見習いで異次元の存在なのでこの程度では疲れません」
「わー、すごいすごーい」
『ガーン!』
愛理栖は劇画フェイスでショックを受けている。本当にわかりやすい奴だ。
「ひかるさんひど~い!
なんです? その気持ちを微塵も感じられない棒読み全快なリアクション!」
彼女が天然過ぎて頭の作りが異次元という研究テーマについて僕はぶっちゃけどうでもいい。
だから……。
よし! この非可積分系の難問はひとまず100年くらいは『飼い殺し』という名の漬物石でじっくり寝かせて置いといて、子孫の代にまるまる押し付けるとしよう。
僕はそんな風なことを考えて時間を潰しながら、くたくたな体で二人の元気な異次元女性の後を追いかけるのだった。
「ひかるさん? あそこに見える丸太小屋じゃないですか!!」
「え? どこ?」
「ほらっ、あそこですよ!」
愛理栖はそう言って指でその丸太小屋を指し示した。
「あっほんとだ!」
「そう、あれがあたいの家だよ。
ほら、二人ともあと少しだよ、頑張れ!」
「は、はい……」
「は~い♪」
「いっちば~ん♪
ひかるさんみてみて、私が一番のりですよ!」
「へ、へへ。へ~い」
「ひかる……さん?」
僕のチャクラはもう限界だ。
『バタン!』
「えええ?」
「あうぅ・・・」
あまりのカッコ悪さにいい歳して涙を流す僕。
ここはさきに一言だけ弁解をさせてくれ。
涙はこのとき僕のまぶたから自然にでてきたものなんだ、これは本当。
僕は雨の仕業であろうぬかるんだ土に足をとられ、そしてうつ伏せになる形で豪快にぶっ倒れてしまった。
この珍妙で誰もが一瞬は言葉を失いそうな姿は誰がどうみても罰ゲームにしかみえないだろう。
『パシャ!』
「ん?
今のはフラッシュの音かな?」
・・・
(ちょっとマジか。
二人とも豪快にスッ転んだ僕を心配してくれねえのかよ)
「お嬢ちゃんのスマホ○phoneだよね?
はい、これでWi-Fi転送完了!価格はコレでどうだろう?」
「えー!! ウッソー!!
ソレだけでいいんですか? 」
「だって、あたいとお嬢ちゃんはこうして縁あって知り合った仲だし特別さ!」
「やったー! ありがとうございます~♪」
「あー痛いなー! 痛いなー!
僕、今地面に激しく頭打ったのかもしれないー!
誰かに構って貰わないと今すぐ死ぬかもー!
どうしよー!」
「あ!
ひかるさん?急に倒れて大丈夫ですか?」
「オイ! 心配するの遅えよ」
「ひ弱《よ》る、大丈夫か?」
「イテテ……。
大丈夫です・・・、
ってちょっと待ったー!」
「どうしたんだ?」
「まず一~つ!
何で僕の名前『ひ弱《よ》る』になっちゃってるんですか~!」
「あれ、違ったのか?
語感も性格もだいたい合ってるだろ?」
「まあ、僕がひ弱なのは百歩譲って認めましょう!
でもですね、何しれっ~と僕が地面に倒れたところを写真に撮って愛理栖に画像売りつけちゃってんですかー!」
「アハハ、ばれてしまったかww
すまんすまん。
でもまあ、安心したまえ。お嬢ちゃんに売った画像はまだパソコンで加工する前の需要の少ない全年齢版の方だ」
「ぷぅ~ww
らしいですよ、ひかるさんww」
「全年齢版ってちょっとー!
18禁版の方では僕どんな恐ろしい姿にされちゃうんですか~!?」
「そうだね~、今はいろんなマニアがいるからね~。
最近は全裸マニアは減ってるんだ。
だからな、今回はお前さんのその運動不足でたるんだぷりっぷりなぷりケツバージョンを中心にだな……」
「キャア~~~!!」
「ちょっとひかるさん?
作画が……、劇画タッチのホラー作品で女子キャラが絶叫するときの顔みたいになっちゃってますよ!!」
「え、ホントに?
ごそごそ」
「オイ、ひ弱《よ》る?
お前どさくさに紛れて、
さっきからあたいの一眼レフべたべた触ってくるなよ!
ったく、気持ち悪いな~!」
「すみません。もうブツは見つかりましたんで大丈夫です。
で、これがそのSDガードですか?」
「ちょっと、てめえ、あたいの貴重な記録をどうするつもりだっ!」
「こうするんですよー!
そ~れ!」
『ポ~イ!』
「あわわわわ、あたいの大切な記録が、
遥か崖の下に……」
「ふん、自業自得ですよ」
「な~~~んて、言うとでも?」
「え、え?
どゆこと?」
「さっき写真を撮った後な、このお嬢ちゃんからきっとにそんな風にされると助言をもらとたのさ♪
だから空っぽのSDカードと入れ替えておきました~ww
残念でした~♪」
「もぉぉほほほほほ~ @♯↓¥!
うふふふふふww」
「ひかるさん?
私はひかるさんの若さの割には薄毛が気になり始めたその可哀想な頭皮から、薄々その兆候は感じていたのですが、ついにその頭の内部まで、完全にアウェイになっちゃいましたか?」
「もぇおおほほほほなに~ @♯↓¥!
な~に~、この罰ゲーム。
うふふふふふww」
「ちょっとからかい過ぎか?
ひ弱《よ》るがついに壊れてしまったぞ!」
「そうですね、クスクスww」
愛理栖? 僕は君にだけは笑われたくないのだけれども……。
この話を長く続けても僕がしゃくにさわるだけなのでそろそろ話題を元に戻すとしよう。
実際にはどれくらいかかったのだろうか? 夜10時頃くらいに歩き始めたとして
僕の体感では、少なく見積もってもゆうに5時間以上はかかった気がするのだが……。
まあなにはともあれ明るくなるまでに無事に女性の家までたどり着くことが出来たのでよしとしよう。
「入りな」
「ありがとうございます。おじゃまします」
まず最初に目に入った琥珀の灯は、アルプスの少女が住んでいそうな丸太作りの部屋をじんわりとあたたかく包み込んでいた。
部屋の隅に目をやると、登山家顔負けの服装をしたたくましい女性が僕の方に背中を向け、中腰で何かをしているようだった。
歳は愛理栖のおばさんと同じくらいだろうか。
首の上で結んだ黒く短いその髪が、
彼女の竹を割ったような性格を象徴しているようだった。
部屋の周りを見渡してみると、
木を切り出して手作りしたであろう形が不揃いで個性的な家具達で溢れていた。
「これなんてすっごくかわいいですね!
この木製の家具はみんなご自身で作られたんですか?」
愛理栖が質問した。
「あたしじゃないんだけどね。 知人が作ってくれたんだよ。
ところで、あたしの自己紹介してなかったね。
あたしは『空《そら》』。 この家に一人で住んでいるわ。
あんたたちは?」
「私は愛理栖っていいます。 よろしくおねがいします」
「で?あんたは?
見るからにお嬢ちゃんどころか彼女に縁が無さそうだけど」
「ハイハイ、僕はどうせ独り身ですよ~」
僕の反応が面白かったのか、 空さんと愛理栖は楽しそうに笑っていた。
そんな笑顔の2人を見ていると、 僕は今日の疲れと緊張が少し和らいだきがした。
「ところで、 あんたたちはこんな山道を通ってどこに行くつもりだい?」
僕は空さんに愛理栖と一緒に彼女のお母さんに会いに行く旅の事を話した。
「へぇ、お母さんに会って自分の本当の名前を見つけるねえ。
見つかるとどうなるんだい?」
それは僕も詳しく聞いてなかったな。
「実は私は人の姿を借りた5次元人の見習いなんです。
そして、私は今世で早く自分の本当の名前を思い出して立派な5次元人になりたいんです」
「なるほど。 愛理栖ちゃんだっけ? 君の真剣な目嘘は言って無いね。 あたしにはわかるよ」
意外な事に空さんは愛理栖の言葉をすぐに信じてくれた。
「あたしもね、夢があるんだ。 あたしは自然の写真を撮って生計をたてているんだけどね」
「どうして写真を撮ろうと思うようになったんですか?」
愛理栖は聞いた。
「ちょっと長くなるけどいいかい?」
空さんは語りだした。
~~~~~~~~回想~~~~~~~~~~
「あたしの父さんと母さんはね、若くしてあたしを産んだんだ。
学生のとき付き合ってまもない頃に妊娠がわかったらしく、母さんは父さんといっぱい相談してあたしを産んでくれたらしい。
しかしね、母さんは私を産んですぐ死んでしまったんだ。
母さんが亡くなった後、母さんのご両親が代わりにあたしを育てると父さんに言いに来ててくれたらしいんだ。
だけど父さんは娘のあたしを手放したくないからと母さんのご両親の申し出を断ったんだ。
そして、あたしの父さんは学校を辞めてまでして必死で働きながら男手一つで私を一生懸命育ててくれたよ。
だけどね、 父さんの会社が倒産したことをきっかけに、いろいろ不運が重なってね。
父さんはお酒にばかり頼るようになって、
だんだん性格が乱暴になっていったんだ。
そして……、たぶんあたしが小学校の低学年になった頃からだと思うけど、あたしは父さんから虐待を受けるようになったんだ。
まる一日食事抜きは当たり前。寝る時と食材の買い出し以外はお風呂さえも禁止で外にずっといるように言われたりね。
あたしは近所の公園で長く時間を潰していたんだ。
『ねえ、母さんみてみて!
あのベンチで寝ている人ホームレスって言うんでしょ?』
『コラ!
何てこと言うの!
ああいう人達には関わっちゃいけません。
ほら、帰るよ』
『は〜い』
公園に来た親子連れそんな風に言われたりもしたな。
それはもう辛かった。
死にたい!
あたしは何度も本気でそう考えたんだ。
だけどね、そんなあたしにも学校に一人だけ仲のいい女子の友達がいたんだ。
貧乏でシャンプーもしていない不衛生な頭のいないあたしとも、わけ隔てなく遊んでくれたんだ。
あたしはね、その子と一緒にいられるときの時間が本当に幸せだったんだ。
だけど、そんなささやかな幸せさえも長くは続かなかった。
ある日、あたしはその子に誕生日プレゼントを貰いそのお返しの為に好きな食べ物を聞いたんだ。
あたしの出せる予算的を考えフルーツの中でどれが好きかを聞いてバナナが好きって言われた。
あたしは父さんに土下座してバナナをプレゼント用に買ってもらえるように頼んだ。
父さんは意外にもあっさりあたしの要求に応えてくれたんだ。
だけどね、その代わりとしての一週間はよりあたしへの虐待がエスカレートしたんだ。
それでもなんとかスーパーでバナナを買うことができて、あたしは学校でその子にあげた。
その子はありがとうっていってくれたけど表情はあんまり嬉しそうにみえなかった。
あたしはそのとき黒い斑点のあるバナナしか金銭的に買えなかったからそのせいかなってちょっと心配だった。
そしてその日の午後の休み時間、 あたしが一人で渡り廊下から教室に戻ろうとするときに学校の焼却炉にその子が立っていたんだ……。」
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
空はwifiダイレクト通信対応の一眼レフを使っています。
わざわざダミーのSDカードに差し替えなくても空のスマホを仲介してクラウドサーバーにアップすればと思われるかもしれませんが、山の中で通信会社の電波が入り辛いスタンドアロンに近い状況です。
それでもアドホックなWi-Fiダイレクト通信を使うことで、空の一眼レフから愛理栖のスマホに撮影した画像を送ることは出来ます。
[ひかる]既出
自称 僕
主人公の青年
本名『五色《ごしき》光《ひかる》』
自称は『僕』。
ヒロインの愛理栖《ありす》の天然な言動へはツッコミを欠かさない。
長野県に住むの新米天文物理学者。
25歳 独身 A型。
長野県の天文観測所で働いている。
有名な科学者五色《ごしき》博士を父に持つ。
母は重い病気で長野市の総合病院に入院中。
母のお見舞のため、たびたび病院に行っている。
◇容姿
顔は中性的で前髪をおろした長めの髪。
背丈は同い歳の男子平均よりは低いが、
痩せているので細くスマートにみえる。
理系で知的な話し方をするが理屈っぽい。
顔や声については当人 曰《いわ》く、
①シスコンで、
②頭のいい眼鏡巨乳好きで、
③現在ドSツンドラ女子と交際していて、
④死んで吸血鬼になっている、
某男子高校生に似ているとかいないとか。
[愛理栖《ありす》]既出
自称 私
ヒロインの女子中学生。
正義感が強く周りの人達みんなの為には努力を惜しまない優しい性格。
たまに天然な言動をしてしまうときがあり、その度にひかるに鋭いツッコミを入れられてしまう。
本名は阿頼耶識《あらやしき》 愛理栖《ありす》。
長い水色の髪と栗色の瞳が特徴的な美少女。
まるでおとぎの国からきた妖精のような不思議な雰囲気《オーラ》を漂わせている。
[空《そら》]new
自称 あたし
写真家。
本名は不明。
山で一人自給自足の生活をしながら大自然をテーマに写真を撮っている。
女性にしては短髪の髪を後ろで結い、
長袖のポロシャツにジーンズに登山靴と、
みるからに登山家を思わせる服装をしている。
正義感が強く、言い訳やズルい事を嫌う
愛理栖のおばさんとはまた別のタイプの男勝りな性格をしている。
—主な登場人物紹介 終わり—
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
神々しく閃光を放つそれは、僕の車のすぐ後ろまで来たかと思うと急におとなしくなった。
きっとその時の僕は、 他人からは喜びのあまり親にすがる幼子のように見えたに違いない。
僕は車から降りるやいなや、はやる気持ちを抑えてそれの元へ一直線に向かった。
すると、中から誰かが顔を覗かせてきた。
「あんた……、 こんな山道で何してんの?」
それに乗っていた女性の顔は暗くてはっきり見えなかったが、
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして驚いていただろうことだけは僕にも理解できた。
「車のタイヤが脱線しちゃいまして。 本当に困ってるんです。
お願いです。 助けてもらえませんか?」
僕は石にでもかじりつくかのような様相で必死にそうお願いした。
「あたしもあんたが進まないと帰れないからね。 脱線した部分見せな」
女性は懐中電灯を取り出し問題の部分を照らした。
「どうです? 引き上げられそうですか?」
「あんたねぇ~、 この車3ナンバー? 車幅的にこんな狭い山道通ること自体無理あるっしょ。しかも後輪駆動だし……」
「すみません。 僕もこんなに道幅が狭くなるなんて思ってなくて……。 それに途中で引き返そうにも一本道だったんで」
「ああ、わかったわかった。あたいは言い訳聞かない。 なった事は仕方ないんだよ」
「JAF……呼びましょうか?」
「いいさ。 どうせここは細い一本道だし。
この落ち方だとどっちにしろあたしのでけん引する事になるからね」
「はあ」
「今は霧も出ていないし、 あたしがバックであんたの車をけん引する。 あたしの車から縄を持ってくる。 あんたも手伝いな」
「もちろん手伝います! どうしたらいいですか?」
「あんたは自分のに乗ってギアをバックにする。 あたしがクラクションで合図したら少しずつアクセルを踏んで。 あたしはバックで少しずつ下がるから。 それでいいね?」
「わかりました」
「私もなにか手伝えませんか? ひかるさんがちゃんとバック出来ているかどうか、 懐中電灯で照らして確認しましょうか?」
「お嬢ちゃんありがとな。 でも暗い中バックする車の後ろにいるのはすごく危険なんだ。 だからあいつの車より前の安全な場所から見ててくれるか?」
「わかりました。 ありがとうございます!」
けん引作業は時間がかかったが、その女性の気転でなんとか無事引き上げる事に成功した。
「助かりました。 ありがとうございます!」
「あたしにお礼なんていいさ。 それよりも、今はまだ夜で視界が悪いから車は明日までここに置いておきな。
いいかい?」
「わかりました。 でもそれではおねえさんも困りませんか?」
「おっ、お姉さんか~! 君なかなか女性の扱い方わかってるね」
女性は最初は不機嫌そうに見えていたがこの一言で少し機嫌がよくなったらしい。
「あたしの家は実は近くにあるんだ。 歩いても行ける距離だから。 しかたないから今日は特別に二人とも泊めてあげる」
「ありがとうございます」
僕と愛理栖は一緒にお礼を言った。
「こっちだよ。 ついてきな」
僕と愛理栖は言われるままに女性の後を黙ってついて行った。
「………………」
「…………? 遠、 大分遠く無いですか?」
「はぁ? 今なんか言った?」
「いえ、何でもないです。 ごめんなさい」
辺り一面、深い深い霧がたちこめていた。
おどろおどろしくフクロウが鳴く霧深い真っ暗な山道を、
僕達は懐中電灯だけで延々と進んでいった。
「それにしてもここ、 うんとしみる~」
僕は身を縮こませ震えていた。
「ここは標高が高いからね」
「なるほど~。
それにしてもあのぅ…。
あと、何分くらいで着くんですか?」
「朝までには着くさ、安心しな!」
「今さらっと凄い事言いいましたよね?」
僕は湧き上がるツッコミを入れたいと思うこの気持ちをなんとかお腹の奥でこらえていた。
一一三時間経過一一
「ハァ~ハァ~」
「ひかるさん、汗いっぱいかいてすごく苦しそう!
大丈夫ですか?」
「そりゃそうさ。だってね、さっきからず~と足場の悪い山道を歩き通しじゃん!
それを、ゼーゼー、こんなに長時間、ハァハァ、歩いたらバテるに決まってるよ・・・。
ん!おや 」
「急に私の方を向いて、どうしたんですか
ひかるさん?」
「なあ、愛理栖?」
「はい?」
「愛理栖は疲れないのか?」
「私は5次元人見習いで異次元の存在なのでこの程度では疲れません」
「わー、すごいすごーい」
『ガーン!』
愛理栖は劇画フェイスでショックを受けている。本当にわかりやすい奴だ。
「ひかるさんひど~い!
なんです? その気持ちを微塵も感じられない棒読み全快なリアクション!」
彼女が天然過ぎて頭の作りが異次元という研究テーマについて僕はぶっちゃけどうでもいい。
だから……。
よし! この非可積分系の難問はひとまず100年くらいは『飼い殺し』という名の漬物石でじっくり寝かせて置いといて、子孫の代にまるまる押し付けるとしよう。
僕はそんな風なことを考えて時間を潰しながら、くたくたな体で二人の元気な異次元女性の後を追いかけるのだった。
「ひかるさん? あそこに見える丸太小屋じゃないですか!!」
「え? どこ?」
「ほらっ、あそこですよ!」
愛理栖はそう言って指でその丸太小屋を指し示した。
「あっほんとだ!」
「そう、あれがあたいの家だよ。
ほら、二人ともあと少しだよ、頑張れ!」
「は、はい……」
「は~い♪」
「いっちば~ん♪
ひかるさんみてみて、私が一番のりですよ!」
「へ、へへ。へ~い」
「ひかる……さん?」
僕のチャクラはもう限界だ。
『バタン!』
「えええ?」
「あうぅ・・・」
あまりのカッコ悪さにいい歳して涙を流す僕。
ここはさきに一言だけ弁解をさせてくれ。
涙はこのとき僕のまぶたから自然にでてきたものなんだ、これは本当。
僕は雨の仕業であろうぬかるんだ土に足をとられ、そしてうつ伏せになる形で豪快にぶっ倒れてしまった。
この珍妙で誰もが一瞬は言葉を失いそうな姿は誰がどうみても罰ゲームにしかみえないだろう。
『パシャ!』
「ん?
今のはフラッシュの音かな?」
・・・
(ちょっとマジか。
二人とも豪快にスッ転んだ僕を心配してくれねえのかよ)
「お嬢ちゃんのスマホ○phoneだよね?
はい、これでWi-Fi転送完了!価格はコレでどうだろう?」
「えー!! ウッソー!!
ソレだけでいいんですか? 」
「だって、あたいとお嬢ちゃんはこうして縁あって知り合った仲だし特別さ!」
「やったー! ありがとうございます~♪」
「あー痛いなー! 痛いなー!
僕、今地面に激しく頭打ったのかもしれないー!
誰かに構って貰わないと今すぐ死ぬかもー!
どうしよー!」
「あ!
ひかるさん?急に倒れて大丈夫ですか?」
「オイ! 心配するの遅えよ」
「ひ弱《よ》る、大丈夫か?」
「イテテ……。
大丈夫です・・・、
ってちょっと待ったー!」
「どうしたんだ?」
「まず一~つ!
何で僕の名前『ひ弱《よ》る』になっちゃってるんですか~!」
「あれ、違ったのか?
語感も性格もだいたい合ってるだろ?」
「まあ、僕がひ弱なのは百歩譲って認めましょう!
でもですね、何しれっ~と僕が地面に倒れたところを写真に撮って愛理栖に画像売りつけちゃってんですかー!」
「アハハ、ばれてしまったかww
すまんすまん。
でもまあ、安心したまえ。お嬢ちゃんに売った画像はまだパソコンで加工する前の需要の少ない全年齢版の方だ」
「ぷぅ~ww
らしいですよ、ひかるさんww」
「全年齢版ってちょっとー!
18禁版の方では僕どんな恐ろしい姿にされちゃうんですか~!?」
「そうだね~、今はいろんなマニアがいるからね~。
最近は全裸マニアは減ってるんだ。
だからな、今回はお前さんのその運動不足でたるんだぷりっぷりなぷりケツバージョンを中心にだな……」
「キャア~~~!!」
「ちょっとひかるさん?
作画が……、劇画タッチのホラー作品で女子キャラが絶叫するときの顔みたいになっちゃってますよ!!」
「え、ホントに?
ごそごそ」
「オイ、ひ弱《よ》る?
お前どさくさに紛れて、
さっきからあたいの一眼レフべたべた触ってくるなよ!
ったく、気持ち悪いな~!」
「すみません。もうブツは見つかりましたんで大丈夫です。
で、これがそのSDガードですか?」
「ちょっと、てめえ、あたいの貴重な記録をどうするつもりだっ!」
「こうするんですよー!
そ~れ!」
『ポ~イ!』
「あわわわわ、あたいの大切な記録が、
遥か崖の下に……」
「ふん、自業自得ですよ」
「な~~~んて、言うとでも?」
「え、え?
どゆこと?」
「さっき写真を撮った後な、このお嬢ちゃんからきっとにそんな風にされると助言をもらとたのさ♪
だから空っぽのSDカードと入れ替えておきました~ww
残念でした~♪」
「もぉぉほほほほほ~ @♯↓¥!
うふふふふふww」
「ひかるさん?
私はひかるさんの若さの割には薄毛が気になり始めたその可哀想な頭皮から、薄々その兆候は感じていたのですが、ついにその頭の内部まで、完全にアウェイになっちゃいましたか?」
「もぇおおほほほほなに~ @♯↓¥!
な~に~、この罰ゲーム。
うふふふふふww」
「ちょっとからかい過ぎか?
ひ弱《よ》るがついに壊れてしまったぞ!」
「そうですね、クスクスww」
愛理栖? 僕は君にだけは笑われたくないのだけれども……。
この話を長く続けても僕がしゃくにさわるだけなのでそろそろ話題を元に戻すとしよう。
実際にはどれくらいかかったのだろうか? 夜10時頃くらいに歩き始めたとして
僕の体感では、少なく見積もってもゆうに5時間以上はかかった気がするのだが……。
まあなにはともあれ明るくなるまでに無事に女性の家までたどり着くことが出来たのでよしとしよう。
「入りな」
「ありがとうございます。おじゃまします」
まず最初に目に入った琥珀の灯は、アルプスの少女が住んでいそうな丸太作りの部屋をじんわりとあたたかく包み込んでいた。
部屋の隅に目をやると、登山家顔負けの服装をしたたくましい女性が僕の方に背中を向け、中腰で何かをしているようだった。
歳は愛理栖のおばさんと同じくらいだろうか。
首の上で結んだ黒く短いその髪が、
彼女の竹を割ったような性格を象徴しているようだった。
部屋の周りを見渡してみると、
木を切り出して手作りしたであろう形が不揃いで個性的な家具達で溢れていた。
「これなんてすっごくかわいいですね!
この木製の家具はみんなご自身で作られたんですか?」
愛理栖が質問した。
「あたしじゃないんだけどね。 知人が作ってくれたんだよ。
ところで、あたしの自己紹介してなかったね。
あたしは『空《そら》』。 この家に一人で住んでいるわ。
あんたたちは?」
「私は愛理栖っていいます。 よろしくおねがいします」
「で?あんたは?
見るからにお嬢ちゃんどころか彼女に縁が無さそうだけど」
「ハイハイ、僕はどうせ独り身ですよ~」
僕の反応が面白かったのか、 空さんと愛理栖は楽しそうに笑っていた。
そんな笑顔の2人を見ていると、 僕は今日の疲れと緊張が少し和らいだきがした。
「ところで、 あんたたちはこんな山道を通ってどこに行くつもりだい?」
僕は空さんに愛理栖と一緒に彼女のお母さんに会いに行く旅の事を話した。
「へぇ、お母さんに会って自分の本当の名前を見つけるねえ。
見つかるとどうなるんだい?」
それは僕も詳しく聞いてなかったな。
「実は私は人の姿を借りた5次元人の見習いなんです。
そして、私は今世で早く自分の本当の名前を思い出して立派な5次元人になりたいんです」
「なるほど。 愛理栖ちゃんだっけ? 君の真剣な目嘘は言って無いね。 あたしにはわかるよ」
意外な事に空さんは愛理栖の言葉をすぐに信じてくれた。
「あたしもね、夢があるんだ。 あたしは自然の写真を撮って生計をたてているんだけどね」
「どうして写真を撮ろうと思うようになったんですか?」
愛理栖は聞いた。
「ちょっと長くなるけどいいかい?」
空さんは語りだした。
~~~~~~~~回想~~~~~~~~~~
「あたしの父さんと母さんはね、若くしてあたしを産んだんだ。
学生のとき付き合ってまもない頃に妊娠がわかったらしく、母さんは父さんといっぱい相談してあたしを産んでくれたらしい。
しかしね、母さんは私を産んですぐ死んでしまったんだ。
母さんが亡くなった後、母さんのご両親が代わりにあたしを育てると父さんに言いに来ててくれたらしいんだ。
だけど父さんは娘のあたしを手放したくないからと母さんのご両親の申し出を断ったんだ。
そして、あたしの父さんは学校を辞めてまでして必死で働きながら男手一つで私を一生懸命育ててくれたよ。
だけどね、 父さんの会社が倒産したことをきっかけに、いろいろ不運が重なってね。
父さんはお酒にばかり頼るようになって、
だんだん性格が乱暴になっていったんだ。
そして……、たぶんあたしが小学校の低学年になった頃からだと思うけど、あたしは父さんから虐待を受けるようになったんだ。
まる一日食事抜きは当たり前。寝る時と食材の買い出し以外はお風呂さえも禁止で外にずっといるように言われたりね。
あたしは近所の公園で長く時間を潰していたんだ。
『ねえ、母さんみてみて!
あのベンチで寝ている人ホームレスって言うんでしょ?』
『コラ!
何てこと言うの!
ああいう人達には関わっちゃいけません。
ほら、帰るよ』
『は〜い』
公園に来た親子連れそんな風に言われたりもしたな。
それはもう辛かった。
死にたい!
あたしは何度も本気でそう考えたんだ。
だけどね、そんなあたしにも学校に一人だけ仲のいい女子の友達がいたんだ。
貧乏でシャンプーもしていない不衛生な頭のいないあたしとも、わけ隔てなく遊んでくれたんだ。
あたしはね、その子と一緒にいられるときの時間が本当に幸せだったんだ。
だけど、そんなささやかな幸せさえも長くは続かなかった。
ある日、あたしはその子に誕生日プレゼントを貰いそのお返しの為に好きな食べ物を聞いたんだ。
あたしの出せる予算的を考えフルーツの中でどれが好きかを聞いてバナナが好きって言われた。
あたしは父さんに土下座してバナナをプレゼント用に買ってもらえるように頼んだ。
父さんは意外にもあっさりあたしの要求に応えてくれたんだ。
だけどね、その代わりとしての一週間はよりあたしへの虐待がエスカレートしたんだ。
それでもなんとかスーパーでバナナを買うことができて、あたしは学校でその子にあげた。
その子はありがとうっていってくれたけど表情はあんまり嬉しそうにみえなかった。
あたしはそのとき黒い斑点のあるバナナしか金銭的に買えなかったからそのせいかなってちょっと心配だった。
そしてその日の午後の休み時間、 あたしが一人で渡り廊下から教室に戻ろうとするときに学校の焼却炉にその子が立っていたんだ……。」
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空はwifiダイレクト通信対応の一眼レフを使っています。
わざわざダミーのSDカードに差し替えなくても空のスマホを仲介してクラウドサーバーにアップすればと思われるかもしれませんが、山の中で通信会社の電波が入り辛いスタンドアロンに近い状況です。
それでもアドホックなWi-Fiダイレクト通信を使うことで、空の一眼レフから愛理栖のスマホに撮影した画像を送ることは出来ます。