【主な登場人物紹介】
[蓮姫《カムラ》]既出
自称 私
紀元前6世紀の古代インドを連想させるガンガラ大陸。
その大陸のとある小国で暮らしていた
自分勝手なお姫様。
[如来]new
自称 わし
薬売りの行者に扮していた老人の正体。
本人はバイシャジヤ・グルと名乗る。
薬師如来のこと。
※登場人物紹介おわり
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「…………?」

「イタタタ~。
頭を打ったかもしれん」
蓮姫は金槌で叩かれたような強い鈍痛で目が覚めた。

そして頭を抱えながらゆっくりと起き上がると、
辺りをくまなく見渡した。
「あ、あ、あ…………」
あまりの驚きで、他の声は出ない。

なぜならその時、
彼女の目に信じられない光景が飛び込んできていたのだから……。

「どこだ……ここは?」

真っ暗な空。
どこまでも果てしなく続くどろどろで真っ赤な血の池。
空を見上げると、炎に包まれた赤黒い不気味な球体が浮かんでいる。

「私は……死んだのか? ここはもしや……、
噂に聞く地獄とやらか?」
その異様か光景は本当に不気味で、そして恐ろしくもあった。

◇やっと気がついたようじゃな?◇
突然、蓮姫の意識の中に天から声が聞こえてきた。

「その声は!
さては~お前!
私に薬の壺を持ってきた行者だな?」

◇さすが姫様、お察しがいいですなあ~♪
しかしのう。薬を売る老いぼれの行者はわしの仮の姿。
実はわしは人間では無い。名はバイシャジヤ・グルという。
如来と言ってもまだ姫様の時代ではわからんよのう◇

「え~い、鬱陶《うっとう》しー!!
さっきからピカピカ眩しくて仕方がない
てめぇ~のその頭はなんなんだ!?」

◇これですかな?
光輪《これ》はわしの……、
神を意味する小道具《こどうぐ》みたいなもんじゃよ◇

「な、なんだってぇ一???
信じられん……。
そ、それは貴様の髪を意味する
『小道具《カツラ》』だったのか!

まあいい。てめえのそのキレイにハゲ散らかった頭が隠れていようがなかろうが、
今の私にはどうでもいい」

◇姫様~!!
それ意味 違《ちゃ》いますぞぉぉ~!!
( >д<)

「違うだと? どういう事だ?」

◇ボクちゃんも~イイもん(T-T)グスン◇

「あっ、拗ねた!」

◇ここはな……あの世でも地獄でも無いんじゃ。
43億2000万年前の姫様の故郷シャンテ国なんじゃよ◇

「ふざけるな!
こんなどろどろの血の池と、
真っ暗な空、あの赤黒い不気味で丸い球体が浮かぶこの地が
どうしてシャンテ国なのだ!?」

◇地球って言ってもわからんよのう。
姫様が生まれるより遥か遠い昔は、
こんな姿だったんじゃよ。
まだ、生き物も生まれていない。
空気さえも存在していないんじゃ。
青い空だってまだまだ先じゃ。
この状態ではお姫様も生存できないはずなんじゃが、
そこはわしの力で耐性をつけておる◇

「お前がさっきから言ってることは、
さっぱり意味がわからん。
とにかく早く私を元のシャンテ国に帰せ!」

◇姫様、残念ながらそれはできんのじゃ◇

「何故だ?」

◇姫様が薬の飲み方の約束を破ったからじゃ。
あれほど忠告したのに……◇

「それはすまなかった。だから戻せ!」

◇姫様、本当に無理なんじゃ◇

「何故だ?」

◇それは、この時代へ姫様を飛ばしたのはわしでは無く姫様自身だからじゃ◇

「私が自分からここへ来ただと……?」

◇御意。
あの壺の薬は単純な不老長寿の薬では無いんじゃ。
粉にして一つまみ水に溶かして飲む事で、
1日だけ時が巻き戻る薬なんじゃ◇

「何だと!?」

◇姫様はあんなに大きな壺の中の薬を1日で全て飲みましたな?
姫様が飲んだのは一劫年、
つまり約一兆五千七百六十八日だけ
時が巻き戻る量なんじゃ。
わしもまさか姫様がそんなに大量に
薬を飲むなんて思いもよらんかったわい◇

「何、何か方法は無いのか!?」

「姫様はあの薬を飲んだことで
この時代でも最低限生活していける能力は
身に付いているはずですじゃ。
だから悪いことは言わん。
わしは姫様のことを思って言うんじゃが、
この時代で新しい生き甲斐をみつけ、
誰にも迷惑をかけなくて済む
充実した余生を送りなされ」

「ふざけんな!
無理じゃ困る!何か方法はねえのか?」

◇無いことは……ないんじゃが、
長く険しい道のりになるぞ?
文句は言わんか?◇

「わかった! 我慢する。
だからその方法を教えてくれ!」

◇御意。
しかし、いくらわしの力でも、
姫様を43億年も一度に飛ばす力は無いんじゃ。
だから、一度ではなく何回も休ませながら
転送を行うのじゃ。
ただし、《《条件》》があるぞ◇

「条件だと?」

◇御意。
わしには如来としての仕事があってな。
それぞれの時代の進化や秩序が乱れないように、《《時の主》》の視察に行く仕事じゃ◇

「その時の主とは何じゃ?」

◇時の主とは、わしがそれぞれの時代で
進化や秩序の管理を任せている精霊じゃ◇

「そうなのか?」

◇話を続けるぞ。
まずは39億年前、初期の原始生物が生まれた時代までは
わしが姫様を飛ばしてあげよう。
姫様が飛ばされたそれぞれの時代には、
必ず時の主がおるようにしておく。
姫様は
《《それぞれの時代で時の主を探し、
そこで新たな時代へと導く手伝いをする》》んじゃ。
すると主は他の時代に飛ばしてくれる。
ただし、時の主が飛ばす時間はランダムで、
戻る事もある。スゴロクと同じなんじゃ。
行きすぎて生まれた時代より未来に行く事だってあるぞ。
しかし、この方法ならわしの仕事もはかどるし、
姫様も元の時代に戻れるやもしれん。
どうじゃ?
我ながらウインウインな提案じゃろ?
それでいいかな?◇

「ランダム? スゴロク?
何の事かよくわからんが、
まあわかった。 じゃあそうしてくれ!」

◇御意。
もう後には引き返せぬが、
それで ‘’本当‘’ に大丈夫ですかな?◇

「無論。 覚悟のうえだ!」

◇うむ、承知した。
「そ~れ!」
謎の老人がそう言って杖を天高く掲げると、
蓮姫の遥か上空に大きな光輝く立方体が表れた。
そして、その輝きはまたたくまに空全体を覆いつくしていく。
一一ワガママな姫様や。
果たして無事に
元の時代に
戻って来れますかな?一一◇

自らを如来と名乗るその老人は、
蓮姫にそう言い残すと
すぐに消え去った。

次の瞬間、
蓮姫の視界は白く眩しい光に奪われた。