「…飛び降りたんだ。生きるのに怯えるどころか、死にたがってるのは当然だろ」

「違う」

「え?」

「本気で死にたがってる人間が、なんであんなこと言うんだよ」


 夢の中。死に向かう暗闇の病院の屋上で俺を“こっち”へ突き飛ばしたあの瞬間。落下しながら確かに見て、聞いたんだ。朝焼けに眩んだ目で、笑いながら、それでも泣いていたミオを。

──────「またね」って言ったあの声を。


 彼女は生きようとしてる。それなら、あの場所で過ごした時間も、記憶も、今も全部無駄じゃない。

 失ってばかりじゃない。






「…星村」


 屈んで、そっと額を彼女の眠るベッドの角に寄せる。

 心電図モニターから届く落ち着いた定期的な音が、耳に流れ込んできた。