「もし生きていたら、桜神社に会いに来てください。私は今もあなたが好きです」

数時間前に書いたばかりの手紙を声にすれば、低い声と綺麗に重なった。

「これを読んで確信した、やっぱり美咲はタイムリープしてきたんだって」

嬉しそうに瞳を緩めて破顔する遼は、すぐに困ったような顔になって「泣くなよ」って微笑んだ。

「美咲が俺を助けてくれたんだ。泣くことなんてない。ほら、笑ってよ」

「だって、もう会えないかと思ってた……」

涙に邪魔をされて声を詰まらせる私に、彼が「バーカ」とあの日のように憎まれ口を叩く。

「言っただろ、絶対に忘れないって」

そして、自信に満ちた笑顔で言い切ってから手を伸ばし、私をそっと抱き寄せた。

「でも、十年は長かったよな……」

色々な感情を込めて噛み締めるように紡がれた言葉に、何度も小さく頷きながら広くなった背中に腕を回す。
長かった。苦しかった。つらかった。寂しかった。
だけど、ずっとずっと想いは変わらなかった。

それはきっと、遼も同じだったのだろう。長い間抱き締め合っていた体を離したとき、彼の瞳には涙が浮かんでいた。

柔らかな春の匂いが混じった優しい風の中で、淡いピンクの花びらが舞う。
雪のように降る桜は、私たちの再会を祝福してくれているみたい。今もまだ信じられないような気持ちでいるけれど、重なったままの手からは温もりも力強さも伝わってくる。


「わっ……!」

不意に強い風が吹き、花吹雪が私の手から手紙を攫った。直後に視界が捕らえた宙を舞う手紙は三通で、悪戯な春の風は遼の手紙まで奪ったのだと気づく。
一瞬ぽかんとしたように顔を見合わせた私たちは、程なくしてどちらからともなく噴き出した。

「行こう。大切な思い出を取り返さないと」

「うん」

「今度はもう、なにがあっても絶対に離さないから」

手をギュッと握り直して破顔した彼に応えるように、私もその手を強く握る。
そして、ふたり一緒に同じ道へ足を踏み出した。


暗くなり始めた春の空の下、立派な桜の木が、まるで暗闇をほんのりと優しく照らすように満開の花を咲かせている。
その美しさを瞳にしっかりと焼きつけて心の中で『ありがとう』と唱え、再び大切なひとを真っ直ぐ見つめながら、繋いだこの手をもう二度と離さないと誓った――。