「あの日のことは、夢だったのかもしれないって思った。一週間も眠っていたから、夢と現実の区別がつかなくなって、記憶が曖昧なのかもしれないって……」

たしかに、事故の状況を知っている人が私があの場にいなかったと言うのなら、そう考える方が辻褄は合うかもしれない。

「夢なのか現実なのか確信が持てなくて、美咲に連絡したんだけど繋がらなくて……。他の奴らに訊いても、誰も美咲の連絡先を知らないって言うしさ」

だけど、遼はどうしてもそうは思えずに過ごしていたようで、「真実を確かめることができないまま十年の月日を過ごした」と付け足した。

「だから、俺にとっての手掛かりは、今日の約束だったんだ」

きっと、何度も自問自答したはず。連絡も取れない私との約束を信じ続けるのは、容易ではなかったに違いない。

「手紙に書いたことは、俺と美咲しか知らない。でも、絶対に約束したって思わずにはいられなかったんだ」

真っ直ぐな瞳で紡いだ遼が、「ときどき、ちょっと自信がなくなりそうだったけどな」と苦笑した。

「そしたら、数日前にこれが届いた」

その言葉とともに見せられたのは、一通の手紙。

「俺が自分に書いた手紙だ。ここには、美咲との十年後の約束が書いてあって、やっぱりあの約束は夢じゃないって思った。ただ、美咲が覚えてくれてるのかはわからなかったけど」

そう言いながらも、遼の表情は憂いや不安みたいなものはまったくなくて、それどころか満面に笑みを浮かべている。さっきまでとは全然違う顔つきでいる彼を不思議に思いながらも見ていると、目の前にもう一通の封筒が現れた。

「でも、やっぱり俺の記憶は正しかった。卒業式のあと、俺たちはたしかにここにいたんだ」

見覚えのある、少しだけ震えたような文字。

【三崎遼様】
そう書かれている封筒は、卒業式の朝、ひとりきりの教室で私が遼に宛てて書いたものだった。

「俺が書いた手紙が届いた日から数日後に届いたんだ。これには、こう書いてあった」

ゆっくりと続きを紡ごうとした遼に合わせるように、私もそっと唇を動かす。