「大丈夫だって。美咲が知ってる過去では、俺たちは付き合えなかったんだろ? でも今は、両想いだってわかって付き合えることになったし、俺も美咲も友達のところに行かずにずっと一緒にいた。美咲が知らない時間を過ごしたんだし、事故に遭った時間もとっくに過ぎてる」
そんな私の気持ちを掬いあげるように、優しい声音が鼓膜をくすぐった。
「それに、さっき桜の木にお願いしたんだ。美咲とずっと一緒にいられますように、って」
「遼……」
「だから、大丈夫だ。帰ろう、一緒に」
「うん……」
立ち上がった遼に引かれ、私も足を踏み出す。夕暮れに染まる空の下で立っている桜の木を祈るような気持ちで見上げ、彼とともに桜神社の階段を下りた。
だけど、不安を消せないせいで言葉が出てこなくて、沈黙が続く。そんな空気を変えるように、「そういえばさ」と遼が口を開いた。
「お前って、どうやって未来に戻るの? 普通、マンガとかだと未来に帰るじゃん」
「えっと……どうすればいいんだろう……」
正直に言えば、このままでいたいという気持ちがあった。仮に十年後に戻ったとしても、遼とずっと一緒にいられるのかなんてわからないし、彼の未来がどうなったのか答えを知る術がない。だったら、いっそのこと十五歳のままでいたかった。
ふと、また欲張りになっていることに気づいて、自嘲混じりの笑みを落とす。遼を救いたいと思っていたはずだったのに、今度は彼と同じ未来を歩みたいなんて考えるのは、きっとずるいこと。
「まぁ、どっちでもいいか」
すると、明るい声が降ってきた。
「美咲が未来に戻っても俺の気持ちは変わらないし、生きてさえいればまた会える」
見上げた視線の先では遼が笑っていて、夕陽を背中に背負った彼がとても眩しい。だけど、目に焼きつけたくて、真っ直ぐに見つめた。
「もし、今の美咲が未来に戻って、“本当の十五歳の美咲”が今日のことを忘れてたとしても、俺がちゃんと覚えてる。二十五歳になった美咲も、ちゃんと約束を守ってくれた。だから、もしこのまま離れることになっても、十年後の約束は消えたりしない」
「うんっ……!」
当たり前のように未来の話をする遼に、涙混じりの笑顔が溢れ出す。未来がどうなるかはわからないけれど、過去を変えることはできた。なによりも、彼の言葉を信じていたくて、私は何度も大きく頷いた。
角を曲がると、遼の家が見える。心配で送ると言った私に、彼は『美咲の帰りが心配なんだけど』と複雑そうな面持ちで返してきたけれど、結局は私の主張が通った。
あと一分もせずに辿り着けるのだから、これで大丈夫なはず。安堵の表情になった私に、笑みが落とされる。
「帰ったらちゃんとメールしろよ。あと、明日も会おう」
「うん」
約束を交わしたことを心に刻みつけるように、お互いの手をギュッと握る。
手のひらから伝わる熱い体温にホッとした、その刹那――。
「美咲っ‼」
私を呼ぶ遼の声が、凄まじい速度で耳をすり抜けた。
遼に抱き締められたことに気づいたのと同時に、世界が反転する。彼の胸元で抱きかかえられた私の視界の端に映ったのは、大型バイク。
どうしてっ……!?
それが声になったのかは、わからない。反射的に遼にしがみついて瞼を閉じた私の視界は真っ暗になって、彼を離さずにいることに必死だったから――。
そんな私の気持ちを掬いあげるように、優しい声音が鼓膜をくすぐった。
「それに、さっき桜の木にお願いしたんだ。美咲とずっと一緒にいられますように、って」
「遼……」
「だから、大丈夫だ。帰ろう、一緒に」
「うん……」
立ち上がった遼に引かれ、私も足を踏み出す。夕暮れに染まる空の下で立っている桜の木を祈るような気持ちで見上げ、彼とともに桜神社の階段を下りた。
だけど、不安を消せないせいで言葉が出てこなくて、沈黙が続く。そんな空気を変えるように、「そういえばさ」と遼が口を開いた。
「お前って、どうやって未来に戻るの? 普通、マンガとかだと未来に帰るじゃん」
「えっと……どうすればいいんだろう……」
正直に言えば、このままでいたいという気持ちがあった。仮に十年後に戻ったとしても、遼とずっと一緒にいられるのかなんてわからないし、彼の未来がどうなったのか答えを知る術がない。だったら、いっそのこと十五歳のままでいたかった。
ふと、また欲張りになっていることに気づいて、自嘲混じりの笑みを落とす。遼を救いたいと思っていたはずだったのに、今度は彼と同じ未来を歩みたいなんて考えるのは、きっとずるいこと。
「まぁ、どっちでもいいか」
すると、明るい声が降ってきた。
「美咲が未来に戻っても俺の気持ちは変わらないし、生きてさえいればまた会える」
見上げた視線の先では遼が笑っていて、夕陽を背中に背負った彼がとても眩しい。だけど、目に焼きつけたくて、真っ直ぐに見つめた。
「もし、今の美咲が未来に戻って、“本当の十五歳の美咲”が今日のことを忘れてたとしても、俺がちゃんと覚えてる。二十五歳になった美咲も、ちゃんと約束を守ってくれた。だから、もしこのまま離れることになっても、十年後の約束は消えたりしない」
「うんっ……!」
当たり前のように未来の話をする遼に、涙混じりの笑顔が溢れ出す。未来がどうなるかはわからないけれど、過去を変えることはできた。なによりも、彼の言葉を信じていたくて、私は何度も大きく頷いた。
角を曲がると、遼の家が見える。心配で送ると言った私に、彼は『美咲の帰りが心配なんだけど』と複雑そうな面持ちで返してきたけれど、結局は私の主張が通った。
あと一分もせずに辿り着けるのだから、これで大丈夫なはず。安堵の表情になった私に、笑みが落とされる。
「帰ったらちゃんとメールしろよ。あと、明日も会おう」
「うん」
約束を交わしたことを心に刻みつけるように、お互いの手をギュッと握る。
手のひらから伝わる熱い体温にホッとした、その刹那――。
「美咲っ‼」
私を呼ぶ遼の声が、凄まじい速度で耳をすり抜けた。
遼に抱き締められたことに気づいたのと同時に、世界が反転する。彼の胸元で抱きかかえられた私の視界の端に映ったのは、大型バイク。
どうしてっ……!?
それが声になったのかは、わからない。反射的に遼にしがみついて瞼を閉じた私の視界は真っ暗になって、彼を離さずにいることに必死だったから――。