「美咲が知ってる俺の運命……って言うのかな……。それ詳しく聞かせてくれないか?」

そんな風に言ってきた遼に、私が見た十年前のことと、彼の友人から聞いた一部始終を伝えた。すべてを打ち明けるのは怖かったけれど、きちんと話さなければいけないと思ったし、遼にはそれを知る権利があるような気がしたから。

「交通事故か……。無駄に運動神経がいいくせに、避けられなかったのかよ……。親とか、じいちゃんばあちゃんとか、友達とか……それから、美咲のことも悲しませたんだよな」

自嘲気味に呟いた彼に、心がズキリと痛む。

目撃者の話では、七十代後半の男性がアクセルとブレーキを踏み間違えて暴走させてしまった車に撥ねられた遼の体は、一瞬で宙に舞ったということだった。鉄の塊に猛スピードで突っ込んでこられたら、人の体ではどうすることもできない。だから、責任を感じるような顔をしている彼を見るのが、とても苦しかった。

「遼は、なにも悪くないよ。事故だったんだもん。どうしようもなかったんだよ……」

桜の木の下に腰を下ろしている私たちは、さっき握ったお互いの手を離そうとはしなかった。眉を下げた笑みを向けられた私は、また滲み始めた視界をごまかすように口角を上げる。

「それに、未来は変わったと思う」

「え?」

「だって、本当は私……遼に告白できなかったんだ。帰りにすごく後悔したけど、引っ越すまでにまだ時間はあるって自分を慰めて、このあとに会うはずだった紘子たちに励ましてもらって……。だから、遼に自分の気持ちを伝えられなくなるなんて思ってもみなかった……」

「そっか……。じゃあ、もしかして俺たちは付き合えてなかったのか?」

「うん……」

十五歳だった私は、遼への想いを伝えられないまま彼と永遠に会えなくなってしまった。だけど、その後悔があったからこそ、今度こそちゃんと伝えることができた。もちろん、こんな風にならなければ伝えられなかったなんて情けない話だけれど、とにかく今は未来が変わってくれることだけを祈っていた。
そして、私たちは不安を埋め尽くすようにたくさんの思い出話をして、何度も笑った。


「もうこんな時間か……。そろそろ帰らないと、美咲の親が心配するな」

不意にぽつりと零した遼は、携帯で時間を確認したようだった。見せられた画面には、十六時四十九分と表示されていて、彼が事故に遭った時間をとっくに過ぎている。
空はその身を赤く染めて、夜に向かっている。もう大丈夫なはずだと思うのに、確信が持てなくて不安を感じていると、明るい笑顔が向けられた。