春の訪れを感じる風の中、ゆっくりと歩を進める。
この街に帰ってくるのは随分と久しぶりで、駅からの街並みはあの頃の面影を残しながらもすっかり違う景色になり、どこか知らない土地にやってきたような気さえする。

東京から新幹線で、およそ二時間。
十五歳のときに刻まれた後悔を抱え、この行為が無駄なことだと理解しながらも故郷に足を踏み入れる決意をしたのは、十五歳の私から届いた手紙に背中を押されたから。

私は、今日――あの日から抱いたままの後悔と向き合うために、こうして懐かしい場所に帰ってきたのだ。


駅から二十分の道のりを経て着いたのは、小さな神社に続く階段の前。階段は十段ほどで、その上には朱に染まる鳥居が鎮座している。
あの頃と変わらない懐かしい景色に心のどこかで安堵し、同時に足が止まった。この先に進むのは勇気が必要で、肩にかけたバッグの持ち手をギュッと握る。

そのまま立ち尽くしていると、楽しそうな声を上げる三人の女の子たちが、今来た道とは反対側から歩いてきた。さっきから何度かすれ違ったセーラー服は近くにある母校のもので、紺色のスカートを揺らして歩く中学生たちの笑顔を目にして、懐かしいような切ないような気持ちを抱きながら瞳を緩める。
明るい笑い声が私を横切ったあと、深呼吸をひとつして、足を踏み出した。


手すりのない石段を上がり、朱い鳥居を抜ける。
その先に広がっているのは、人気のないご本殿とその傍にそびえ立つ立派な桜の木。ちょうど見頃を迎えている今、満開の桜の木は両手を広げるかのような枝に惜しむことなく淡いピンク色を花を携えていた。

あの頃よりも大きくなった桜の木は、十年前よりもずっとたくさんの花びらを身に着けてさらに美しさを磨いているのに、なんだか悲しげに見える。滅多に人が来ないこの地で誰かを待ち続けているかのようにも感じられ、しばらくは目が離せなかった。


ふと腕時計を確認すると、時刻は十六時五十七分。みんなで遊ぶときにはいつも決まって最後にやってきた“彼”が、プライベートで時間を守ってくれたことは一度もなかったような気がする。

そんな思い出に苦笑混じりの小さな笑みを零し、境内のお賽銭箱に五円玉を入れる。だけど、私の願いが叶うことはもうないとわかっているから、まるであの頃の後悔を懺悔するかのような気持ちで手を合わせて瞼を閉じた。


ふわりと春の匂いを連れた風が吹き、ゆっくりと目を開ける。腕時計は十七時五分を指していて、現実を理解しているはずなのにため息が落ちる。

境内から離れ、桜の木にそっと背中を預けた。見上げた視界の先には満開の桜が優しく揺れていて、その隙間からは四月の空が見える。
日が長くなった空はまだ明るく青く、桜色の向こう側の太陽が眩しかった。


バッグを漁って手帳を開き、五日前に届いた白い封筒を取り出す。そこに書いてある内容はほとんど覚えていなかったけれど、最後の四行にしたためたことだけは一日も忘れたことはなかった。

「遼との約束は覚えていますか? この手紙が届いた日から一番最初の日曜日、桜神社に十七時です。遼は約束を忘れているかもしれないけれど、十年後の私は遼との約束を守ってください」

静かな声音で朗読した、四行。私は意を決して約束を守るためにこの地を訪れたけれど、遼がここに来ることはない。
彼――三崎(みさき)遼は、中学校の卒業式を終えて友人と遊びに行った帰り道、交通事故に遭って還らぬ人となってしまったから……。