「本当にどうした? お前、そういうこと言う奴じゃないだろ? 美咲は、ちょっと素直じゃないところもあるけど、みんなに優しくて……どんなときも友達思いで、周りのことを考えてる奴じゃん」
困惑の色が強かった面持ちが、心配そうなものに変わる。遼は数秒だけ黙ったかと思うと、穏やかな声音で「なにかあるんだろ?」と付け足した。
冷静になって、ちゃんと考えて。上手く言い訳を考えれば、きっと彼を引き留めることはできるはず。そう思っているのに、不安に煽られる心に邪魔をされて思考が働かない。
再び視界が滲み出し、遼の顔が見えなくなっていく。このまま彼が消えてしまうんじゃないかという恐怖が心に過ったとき、考えるよりも早く口火を切っていた。
「お願い、行かないでっ! 行ったら、遼が死んじゃう……!」
涙混じりの声が静かな神社の空気を揺らし、咄嗟に掴んだ遼の胸元を強く握った。今はこんなにも近くにいるのに、私が知っている未来に彼はいない。それを伝えたところで信じてもらえるわけがないとわかっていたのに、気づいたときには事実を口にしていた。
「は? なんだそれ……。美咲、なに言ってるんだよ……」
当たり前だけれど、怪訝な顔つきになった遼は、理解不能だと言わんばかりに吐いた。ただ、その瞳には不安が顔を覗かせていた。
「わかってる……信じられないよね……。でも、嘘じゃないの……! このままだと、きっと本当に遼は死んじゃうの……」
「いや、死ぬって……。冗談にしては笑えないぞ?」
「……っ! 冗談なんかじゃないの!」
まるで小さな子どものように泣いて訴えながら、理解してもらえるはずはないと思う。だって、逆の立場なら、私は信じることができない。
「じゃあ、どうして美咲がそんなことわかるんだよ?」
それでも、吐いてしまった言葉を戻すこともできないから、手の甲で涙を拭って深呼吸をしたあと、遼をしっかりと見据えた。
「私……未来から来たの」
「……は?」
「二十五歳になって十年後の約束を守るためにここに来たけど、遼は来なかった……。だって……遼は……」
零れる雫が頬を濡らし、言葉に詰まる。
「今日の夕方、みんなで遊んだ帰りに事故に遭うから……」
「なんだよ、それ……」
驚愕したような声で零した遼からは訝しげな表情は消え、代わりに不安をあらわにしていた。
「信じられないってわかってるけど、遊びや冗談でこんな嘘ついたりしない。せめて、四時半まではここにいて……。お願いっ……!」
握ったままの学ランの胸元に皺が寄り、グチャグチャになっている。彼は、私を見下ろしていた視線を一旦逸らし、宙を仰ぐように桜の木を見上げた。
困惑の色が強かった面持ちが、心配そうなものに変わる。遼は数秒だけ黙ったかと思うと、穏やかな声音で「なにかあるんだろ?」と付け足した。
冷静になって、ちゃんと考えて。上手く言い訳を考えれば、きっと彼を引き留めることはできるはず。そう思っているのに、不安に煽られる心に邪魔をされて思考が働かない。
再び視界が滲み出し、遼の顔が見えなくなっていく。このまま彼が消えてしまうんじゃないかという恐怖が心に過ったとき、考えるよりも早く口火を切っていた。
「お願い、行かないでっ! 行ったら、遼が死んじゃう……!」
涙混じりの声が静かな神社の空気を揺らし、咄嗟に掴んだ遼の胸元を強く握った。今はこんなにも近くにいるのに、私が知っている未来に彼はいない。それを伝えたところで信じてもらえるわけがないとわかっていたのに、気づいたときには事実を口にしていた。
「は? なんだそれ……。美咲、なに言ってるんだよ……」
当たり前だけれど、怪訝な顔つきになった遼は、理解不能だと言わんばかりに吐いた。ただ、その瞳には不安が顔を覗かせていた。
「わかってる……信じられないよね……。でも、嘘じゃないの……! このままだと、きっと本当に遼は死んじゃうの……」
「いや、死ぬって……。冗談にしては笑えないぞ?」
「……っ! 冗談なんかじゃないの!」
まるで小さな子どものように泣いて訴えながら、理解してもらえるはずはないと思う。だって、逆の立場なら、私は信じることができない。
「じゃあ、どうして美咲がそんなことわかるんだよ?」
それでも、吐いてしまった言葉を戻すこともできないから、手の甲で涙を拭って深呼吸をしたあと、遼をしっかりと見据えた。
「私……未来から来たの」
「……は?」
「二十五歳になって十年後の約束を守るためにここに来たけど、遼は来なかった……。だって……遼は……」
零れる雫が頬を濡らし、言葉に詰まる。
「今日の夕方、みんなで遊んだ帰りに事故に遭うから……」
「なんだよ、それ……」
驚愕したような声で零した遼からは訝しげな表情は消え、代わりに不安をあらわにしていた。
「信じられないってわかってるけど、遊びや冗談でこんな嘘ついたりしない。せめて、四時半まではここにいて……。お願いっ……!」
握ったままの学ランの胸元に皺が寄り、グチャグチャになっている。彼は、私を見下ろしていた視線を一旦逸らし、宙を仰ぐように桜の木を見上げた。