十年前には、伝えることができなかった想い。
たったの四文字は二秒にも満たないくらいで紡げてしまって、ちゃんと声にできたのかと思ったほど。ただ、その心配は必要なかったようで、一瞬ぽかんとしていた遼の頬がみるみるうちに赤くなっていった。
「私ね……ずっと遼のことが好きだったの」
もう一度はっきりとした声音で伝えれば、まるで待ち構えていたかのようにそのまま続けて言葉が出てきた。
「今まで言えなかったけど、伝えられないまま離れ離れになっちゃったら、絶対に一生後悔するから……。今、ちゃんと伝えたかったんだ」
どうすることもできない後悔を抱えて生きてきたけれど、二度目のチャンスでようやく想いを言葉に変えることができた。
これだけでは伝え切ることはできないけれど、どんなにたくさんの言葉を並べてもすべてを上手く伝えられるとは思えないけれど。
それでも、私は――ようやく、遼に想いを届けられた。
彼は十年も掛かってしまったなんて知らないのに、やっと言えたという気持ちが強くて、思わずそれまで口にしてしまいそうになった。
「あー、うん……。そう、だったんだな……」
少しの間を置いて、遼は独り言のような言葉を並べたあと、脱力したように「そっかぁ」と息を吐いた。胸の奥が痛んだのは、彼が困っているのが見て取れたから。
両想いだと思っていたわけじゃない。遼はずっと私たちの関係を親友だと主張していたし、彼が私を恋愛対象に見ていなかったことくらい十五歳のときから知っていたから。
それでも、困り顔でため息をつかれてしまうと、つい傷ついている私がいた。
『大丈夫だよ。振られるってわかってたから』
頭の中で用意した言葉が、上手く出てこない。遼を困らせているとわかっているのに、この想いが実らなくてもいいから……と願ったはずなのに、彼の口から謝罪の言葉が出てくるのが怖かった。
逃げるように視線を彷徨わせた直後、桜の木の幹が目に留まった。そっと見上げれば、まだ僅かな蕾しかつけていない枝が私を見つめている。
なに考えてるの……! 違うでしょう……?
私の気持ちを優先するために、ここに来たわけじゃない。想いを伝えたかったのは、本心だけれど……。私は遼のことを助けたくて、彼の未来を守るためにここに来たということを、改めて心に刻んだ。
「遼、あのね──」
「なんだ……両想いかよ」
視線を戻した直後に予想もしていなかった言葉が耳を通り抜け、聞き間違えたのかと思うよりも早く、遼が照れ臭そうに笑った。
「先に言うとか、ずるいだろ……」
悔しげな顔で微笑む彼は、「先に言うなよ」と拗ねたように言いながら後頭部をガシガシと掻いた。
「明日、言うつもりだったんだ……」
「遼……?」
遼から視線を逸らすことができないまま、落とされていく言葉を必死に追いかけていた。考えてもみなかった結果に思考が追いつかなくて、だけど先に追いついたらしい心がギュッと締めつけられる。
「それなのにさ、先に言われるとか……男として情けないだろ」
ぽつりと吐いた彼を前に、甘い苦しさの中から喜びが芽生え、押し込めるつもりだった想いが体の奥底からせり上がってくる。
私は、欲張りだ。
悲し過ぎる未来を知っていて、伝えることすらできなかった想いを後悔とともに抱えてきたからこそ、この恋が実らなくてもいいと思っていたのに……。両想いだとわかった途端、遼の傍にずっといたいと思ってしまった。
たったの四文字は二秒にも満たないくらいで紡げてしまって、ちゃんと声にできたのかと思ったほど。ただ、その心配は必要なかったようで、一瞬ぽかんとしていた遼の頬がみるみるうちに赤くなっていった。
「私ね……ずっと遼のことが好きだったの」
もう一度はっきりとした声音で伝えれば、まるで待ち構えていたかのようにそのまま続けて言葉が出てきた。
「今まで言えなかったけど、伝えられないまま離れ離れになっちゃったら、絶対に一生後悔するから……。今、ちゃんと伝えたかったんだ」
どうすることもできない後悔を抱えて生きてきたけれど、二度目のチャンスでようやく想いを言葉に変えることができた。
これだけでは伝え切ることはできないけれど、どんなにたくさんの言葉を並べてもすべてを上手く伝えられるとは思えないけれど。
それでも、私は――ようやく、遼に想いを届けられた。
彼は十年も掛かってしまったなんて知らないのに、やっと言えたという気持ちが強くて、思わずそれまで口にしてしまいそうになった。
「あー、うん……。そう、だったんだな……」
少しの間を置いて、遼は独り言のような言葉を並べたあと、脱力したように「そっかぁ」と息を吐いた。胸の奥が痛んだのは、彼が困っているのが見て取れたから。
両想いだと思っていたわけじゃない。遼はずっと私たちの関係を親友だと主張していたし、彼が私を恋愛対象に見ていなかったことくらい十五歳のときから知っていたから。
それでも、困り顔でため息をつかれてしまうと、つい傷ついている私がいた。
『大丈夫だよ。振られるってわかってたから』
頭の中で用意した言葉が、上手く出てこない。遼を困らせているとわかっているのに、この想いが実らなくてもいいから……と願ったはずなのに、彼の口から謝罪の言葉が出てくるのが怖かった。
逃げるように視線を彷徨わせた直後、桜の木の幹が目に留まった。そっと見上げれば、まだ僅かな蕾しかつけていない枝が私を見つめている。
なに考えてるの……! 違うでしょう……?
私の気持ちを優先するために、ここに来たわけじゃない。想いを伝えたかったのは、本心だけれど……。私は遼のことを助けたくて、彼の未来を守るためにここに来たということを、改めて心に刻んだ。
「遼、あのね──」
「なんだ……両想いかよ」
視線を戻した直後に予想もしていなかった言葉が耳を通り抜け、聞き間違えたのかと思うよりも早く、遼が照れ臭そうに笑った。
「先に言うとか、ずるいだろ……」
悔しげな顔で微笑む彼は、「先に言うなよ」と拗ねたように言いながら後頭部をガシガシと掻いた。
「明日、言うつもりだったんだ……」
「遼……?」
遼から視線を逸らすことができないまま、落とされていく言葉を必死に追いかけていた。考えてもみなかった結果に思考が追いつかなくて、だけど先に追いついたらしい心がギュッと締めつけられる。
「それなのにさ、先に言われるとか……男として情けないだろ」
ぽつりと吐いた彼を前に、甘い苦しさの中から喜びが芽生え、押し込めるつもりだった想いが体の奥底からせり上がってくる。
私は、欲張りだ。
悲し過ぎる未来を知っていて、伝えることすらできなかった想いを後悔とともに抱えてきたからこそ、この恋が実らなくてもいいと思っていたのに……。両想いだとわかった途端、遼の傍にずっといたいと思ってしまった。