「遼」

「なんだよ。まだ疑って――」

「約束だよ。絶対、絶対……桜の写真も、十年後も、ちゃんと約束を守ってよ」

「あぁ。絶対に守るよ」

あまりにも真剣に言う私に、遼は目を僅かに見開いたあとで、真っ直ぐな瞳で頷いてくれた。それでも、まだ足りなくて、おもむろに唇を動かす。

「破ったら許さないから。一生許してあげないんだから……」

いつの間にか声が震えていて、言い終わる頃には視界が滲んでいた。

「美咲?」

一生許してあげない、なんて身勝手な言い草だと思う。
だって、遼はきっと桜の写真を送ってくれたはずだから。今となってはもうわからないことだけれど、彼なら本気で約束を守ってくれようとしたと、信じている。
だから、この約束が果たされることがなかった未来を知っている私は、せり上がってくるたくさんの感情をこらえ切れなくなって……。じわりと滲んだままの瞳から、小さな雫が零れ落ちた。

「おいっ、泣くなよ! そんなに大袈裟な話じゃないだろ?」

焦ったように私を宥める遼は、「いつもみたいに笑えよ」と困り顔を見せる。その表情は、二十五歳の私から見るととても一生懸命に思えて、涙が溢れてくる中で彼のことを可愛いと感じてしまう。同時に、口元から微かな笑みが漏れた。

「そうだね……」

十年前は、遼が約束を守ると言ってくれたあと、私は『絶対だからね!』と強く言っただけだった。それなのに、十歳も年上になってしまった私が彼を困らせているなんて……。
もちろん、遼から見れば今の私は彼と同い年だけれど、本当は一昨日にタイムリープしてきたのだ。

本来の目的は、このときの約束を遼に果たしてもらうことじゃない。ただ、一昨日から今日までに私が何度も十年前とは言動を変えているにもかかわらず、さっきみたいに彼に同じ台詞を言われたりするから、このままでは未来を変えられる気がしない。
人ひとりの運命を変えるには、もっと大きなことを変えなければいけないのだろうか。だけど、私に残っている切り札は、たぶんあとひとつしかない。

「遼、あのね……朝言ってた、伝えたいことなんだけど」

ゆっくりと息を吐いて、遼の顔を見つめる。彼は、私の言葉につられるかのように僅かに顔を強張らせたあと、真っ直ぐな瞳で私を見据えてきた。

私たちの間を柔らかな風が通り抜ける。
ここに来るまでに覚悟を決めてきたはずだった。十年も後悔し続けて、あの日に刻まれた悲しみを未だに抱えているのだから……。それに比べれば、告白なんてたいしたことじゃない。

そんな風に考えていたはずだったけれど、いざとなると緊張で頭が真っ白になりそうになって、言葉がなかなか出てこなかった。
すると、遼はそんな私の気持ちを思いやるように、優しい笑みを浮かべた。

「ゆっくりでいいよ。ちゃんと聞くから」

二重の瞳を柔らかく緩めて、穏やかに言う。その表情と声音に、鼓動が小さく跳ねた。
遼にときめくのは、何度目のことだろう。もしかしたら、十年後のことは長い夢だったのかもしれない、なんて思い始めてしまうほどに、私は十五歳の彼に恋をしている。
胸の奥が甘く締めつけられて、鼓動が高鳴って。十五歳だったあの頃と同じように、恋焦がれている。

「好きなの」

そして、気がつけばためらっていたのが嘘のように、自然と想いを紡いでいた。