シュンと出会ったのは小学一年生のとき。住んでいるところから少し離れた幼稚園に通っていた私は、入学当初同じ小学校に全くと言っていいほど友達がいなかった。

今とちょうど同じ季節、かろうじて桜が咲いている気温のちょうどいい春の日。

同じ保育園からやってきた仲間を見つけては騒ぐクラスメイトを見ながら、ぽつんとひとり窓際の席に座る私の横で、同じようにひとり席に座っているシュンがいた。

他の人よりも随分と色白で、綺麗な黒髪は目にかかるくらいまで長かった。あの時はまだ私よりも背が低くて、猫背に曲がった背中はとても頼りない。けれどとても綺麗な瞳をしていると思った。現実には青ではないけれど、私の目には限りなく透明に近いブルーに見えた。まるで吸い込まれるんじゃないかと思ったほど。いつかふらっとどこかへ消えてしまいそうなほど儚いその色は今でもずっと変わっていない。


『ねえ、名前なんて言うの?』


思わず聞いた私の声に、ゆっくりとシュンがこちらを向いて、怪訝そうな顔をしたことを覚えている。今でこそシュンの性格を知り尽くしているけれど、そのときは初対面。シュンと正反対の性格をしている私は、度を超えた人見知りに加えて極度の人間嫌いというダブルパンチを兼ね備えたシュンのような人間がいるだなんてまだ知らなかった。

シュンはじっと黙ったままわたしを見て、それから『ハヤカワ シュン』と、それだけ小さく呟いた。

ハヤカワ シュン──その名前を私はゆっくりと脳内で噛み砕く。むすっとした表情を変えない彼を見て、怒っているのかな、と思う。でも、シュンの耳が少しだけ赤くなっていることに気づいて、思わずふふっと声を出して笑ってしまった。


『シュンっていうんだ。わたしは、ナツノ』


思えばあの時から私はとても馴れ馴れしかった。シュンはまた怪訝そうな顔をして、『そう』とだけつぶやいた。

態度の悪いやつだと思った。けれど、ひとりでいた私は、返事が返ってくることだけでもうれしかった。同じ保育園からきた友達がいなかった私にとって、はじめて自分の名前を誰かに伝えることができたのだ。

シュン。───ハヤカワ シュン。

初めての学校。初めての友達。初めての隣の席。単純にとてもうれしかった。綺麗なシュンの横顔も、シュン越しに見えた桜の木も、未だに鮮明に覚えているくらい。