ハルカが亡くなった。それはあまりに突然の出来事だった。

中学2年、春。わたしがシュンとふたりで手を繋いで歩いていた後ろ姿を見た始業式から1ヶ月ほど経った頃。


日曜日の夜、たまたまシュンと一緒にうちで難しくなった数学のテキストを解いていた時のこと。ハルカは家族旅行に行っていて、時々開かれる私の家での勉強会に参加できなかった。お土産楽しみだね、シュン。そんな風に、ハルカが帰ってくるのことを、当たり前のように話していた夕方17時。


ドタバタとお母さんが階段を駆け上がってくる音がして、突然バタリと私の部屋の扉が開かれた。シュンも私も驚いて扉を開けたお母さんを見た。

受話器を片手に、お母さんの手と唇が、尋常じゃないくらいに震えていた。そんな親の姿を、私は生まれてから初めて見た。


『────ハルカが事故に遭ったって、今、電話があって』


辿々しく、気が動転していたんだろう、混乱したように私たちに、『病院に行くからすぐ準備して、』と泣きそうな声で続けた。

今思えば、きっとお母さんはこの時には既に旅行から帰宅途中のハルカ家族を乗せた車が大型トラックと衝突したことも、病院に搬送されたものの全員ほぼ息をしていなかったことも、聞かされていたのだろう。

ほんの少しの可能性にかけて、私たちはハルカが搬送されたという病院へ向かうべく車に乗り込んだけれど、ものの30分足らずで再び助手席に座ったお母さんの携帯が鳴った。車の中で電話をとったお母さんは、『そうですか』と声を震わせて泣いていた。隣で運転していたお父さんも、だ。


────ハルカが亡くなった。


家族と一緒に、全員ほぼ即死だった。お母さんが何と後部座席に乗っているわたしとシュンに説明したのか、今はもう覚えていない。

事の事態を言葉では聞いても、頭では理解できず、私とシュンはまるで御伽話でも聞いているかのように、私の両親が泣いている姿を見ていた。

涙も出なかった。どうして両親がそんなに泣くのかわからなかった。ハルカがいなくなってしまうなんて、現実のこととは思えなかった。

その時、シュンがそっと、私の手を取ったことを覚えている。いつも人に興味がなさそうで、感情に無頓着なシュンの手が、ひどく震えていた。

わたしたちはお互いの震えを止めるように手を取り合って、言葉を発することもせず、車内に響く私の両親の泣き声を聞いていた。その間ずっと、わたしはハルカの綺麗な水の中に泳いでいく姿を思い出していた。