ゆっくり目を開けると、見慣れない天井がうっすらとうつった。それは何故だかぼんやりと滲んでいる。


「大丈夫?」


ふと、声がした。まだ完全に開いていない目を横にずらすと、心配そうなスミくんの顔がある。いつもちゃんとセットされている茶髪が、右側だけちょこんと跳ねていて、かわいいな、とおもった。

そういえば、昨日は花火大会で、スミくんの家に泊まったんだった。いつの間にか眠っていて、ハルカと、あの頃の夢を見ていた。

大丈夫?、ともう一度やさしく聞かれる。なんでそんなことを聞くのだろう。スミくんも起きたばかりかな。


「……うん」
「嫌な夢でも見た?」


スミくんが心配そうにしていた理由がわからず不思議そうにしていると、そっと頬をスミくんの指先がなぞった。そこではじめて、自分が泣いていたことに気がついた。


「昔の、夢を見ていたのかも」
「そっか」


スミくんが手を離したので、自分の左手で頬を拭ってみる。もう、乾いている。寝ている時に流れていたんだろう。ハルカとシュンの夢を見ることはしばしばあるけれど、朝起きた時にだれかが涙を拭ってくれたことは、生まれてはじめてだ。わたしはのそりと布団から出て起き上がる。今何時だろう。

こんな寝起きの顔、本当は、見られたくないけどね。


「ごめん昨日から、なんかわたしへんだ……」
「ナツノが変なのはずっとだけど」
「それを言うなら、スミくんもだけど」
「今日、用事ないならどっか行く? あ、でも足痛いかー」
「突然話変わる……」
「折角だしと思ってさ」


ケラケラとスミくんがわらう。やっぱり、やさしい笑い方をするね。でも、まだ、起きて5分も経ってないってば。


「あれ、ナツノちゃん起きたー? 朝ごはん食べる?」


ちょうどよくヒョコッと襖からスイさんが顔を出した。そういえばスイさんも一緒に寝たんだったな。朝起きるのは先を越されてしまったらしい。開けられた襖から焼けるパンのいい匂いがした。

わたしはスミくんに「足痛いから、今日は帰る」と伝えてスイさんがいる台所へと足を進める。スミくんは「まだ心開かれてないの?おれ」と呆れたような肩をすくめているけれど。


「ナツノちゃん、なんか、表情軽くなった? 重荷取れたみたいな顔してるね」


スイさんが何気なく笑ってそう言うので、わたしはなんだか泣きたくなって、洗面所かります、と逃げた。来週最後のプール掃除は、サボらないから、今日はごめんね、と心の中でスミくんに謝って。