気づいてしまった気持ちには、もう嘘はつけなかった。ただ、誰かに言うことはできなかった。もちろん、ハルカにも、シュンにも、親にも、だ。自分がマイノリティ側の人間だと言うことは、さすがの私でも、10年そこら生きているので、理解していたからだ。

テレビは言う。『LGBTqを知っていますか』と。
教科書は言う。『多様性を認め合おう』と。
何も知らない人間は言う。『性別を超えて人をすきになるって素敵だよね』と。

不思議なことじゃないよね。多様性だよね。個性だよね。当たり前だよね。変なことじゃないよね。そういう人もいるよね。そういうのに偏見ないよ。人の数だけ性別はあるよ。自分の当たり前と人の当たり前は違います。見た目と心の性別が違う人もいます。男女平等です。男だから、女だから、そんな言葉は使ってはいけません。あらゆる人に配慮して生きていかなければなりません。多様性を認めなければいけません。今までとこれからは違います。時代は変わります。


もしかしたら、時代は変わったのかもしれない。
けれど、打ち明ける必要もない。


誰にも言えなかった。言えるわけがなかった。だって、私自身がいちばん、人と違うことが、怖かったからだ。

自分はお父さんとお母さんから産まれてきたのに、女の子でありながら、女の子をすきだと思う。女の子に対して、綺麗だと思う。女の子に対して、触りたいと思う。自分の欲求がこれ以上強く深くなれば、いずれ誰かしらを傷つけることになる。それは、わたしから欲求を向けられた誰かかもしれないし、わたしに自分たちと同じ幸せを願っている両親かもしれない。

ハルカを好きだという気持ちはまだいい。だって仕方がない。けれど、好きな気持ちに比例して、いつか自分が、ハルカを性的搾取してしまうんじゃないかということが、いちばん、怖かった。こんなに綺麗なものを汚してしまうんじゃないかということが、怖かった。そして、もしこの不純な気持ちがハルカにバレたら、確実に嫌わてしまうと思った。理解されないと思った。『恋をしたことがある?』と私たちに聞いたハルカの恋愛対象が異性であることは明白で、ハルカが私に向けている好意や信頼は”私が女の子であるから”が大部分を占めてあることもわかっていた。その証拠に、初めて月経があった時も、誰かに好意を寄せられて困っていた時も、シュンには言わずわたしたちだけの秘密だった。それは、女の子であるから、ハルカの特別になり得ることだった。

もし、わたしがハルカのことを恋愛対象に見ているとわかれば、それこそシュンと3人でいることさえ出来なくなってしまうかもしれない。それがいちばん、怖かった。

触れたら折れてしまいそうな、軟いハルカの肌に、小学生の時みたいに触れることはもうできない。けれどいちばん近くでその笑顔を見ていたい。そんな純粋な気持ちだけでいい。純粋な恋心だけを、持っていられたらいい。

そんなふうにやり過ごして、なんら変わらず、シュンとハルカのいちばんの親友ポジションを確立して。とにかく、隠し通した。誰にも気づかれず、ひっそりと、ハルカに恋をしていた。その綺麗な横顔が、いつか誰かのものになったら、私はどうしてしまうんだろうと、心の奥でゆらゆらとした黒いものを抱えながら、ハルカの横にいた。


そして、あの日がやってくる。