入部1日目がやってきた。

私は個人的に小学生の頃から水泳を習っていたから、特にいつも通り。初めての中学生版スクール水着に水泳キャップ、それからゴーグルを首にかけて。

まだプール開きをしていなかったので、近くの市民プールを借りた室内プール。あのプールの独特の匂い、意外とすきだ。

本当は入部初日、ハルカと一緒に市民プールまで来るつもりだったんだけれど、学級委員を任されたハルカは仕事があるからと遅れてくることになっていた。さすが、賢くて人気者なだけあるよね。学級委員なんて私には程遠いや。

水泳部は人気がなくて、3年の先輩たちを含めても女子が7人。そのうち1年生はわたしとハルカだけだった。軽くウォーミングアップをして、25メートルを何回か泳ぐ。水泳を習っているわたしには簡単なことだった。


そしてその日わたしは、はじめて────ハルカの泳いでいる姿を見た。


小学生の頃は水泳の授業がなかったから、ハルカの水着姿も、水に浮かんだ姿も、泳いでいる姿も、初めてだった。

少し遅れてプールサイドへ降り立ったハルカのことを、わたしはきっと一生忘れることなんて出来ないだろう。

いつも通り綺麗な顔立ちをして、紺色のスクール水着はスタイルのいいハルカの身体を際立たせていた。私が25メートルを3回泳ぎきって、ちょうどプールサイドへあがろうとした時のことだ。3レーン先で、ハルカがプールの中へ身を預ける瞬間を見た。

黒い綺麗なストレートロングをポニーテールに結った姿は、きっと誰が見たって惚れ惚れするものだっただろう。ハルカはそれを上手に水泳キャップにしまった。それでも尚ハルカの端正な顔立ちは際立って綺麗に見えた。

まるで雪のような白い肌は透き通っていて、つま先から水面に触れたそれは水と同化してしまうんじゃないかと思うほど。爪の先から睫の先まで、何度も思い出してしまうくらい、ハルカは本当に、言葉で表すのも難しいくらい、ひどく綺麗だった。───綺麗だと、思ってしまった。

言葉が出なかった。惹かれるという言葉の正体はここにあったのか、と思った。

そのままゆっくりとプールサイドから身体を離し、真っ直ぐに伸びたハルカの背中が綺麗な水面へ浮かんだ。水をかいた右手の指先までもを、目で追った。

その時、わたしは初めて自分の心臓が音を立てるのを聞いた。聞いたことのない音だった。どくん、と心臓をつかまれたような衝撃。はじめてのクラスで自己紹介をしたときにも感じなかったいやな緊張感が全身を駆け巡った。そして思わず、目を逸らした。

ダメだと思う、これ以上は見たらいけない。ハルカから目線を逸らしたのは、ほとんど反射的で、直感のようなもの。自分自身をセーブするようなその動きに、少しだけ身体が震えた。

その綺麗な指先を、自分の物にできたら、────なんて、バカみたいな不純な気持ちを、誰がわかってくれたのだろう。

綺麗な髪も、長い睫毛も、艶のある唇も、白い肌も、膨らんだ胸も、触れられそうで触れない指先も、すべて、わたしが自分の気持ちに気づくのには充分過ぎる理由だった。


わたしは、ハルカのことを、”性対象”に見ている。


自覚した途端、自分のことが、心底、気持ちが悪くて、急いで駆け込んだトイレで吐いた。何度も、何度も、ハルカを思い出しては、嘔吐した。


綺麗だった。あまりにも綺麗で、どうしようもなく、触れたかった。


今まで、周りの色恋の話に全くついていけなかった。自分にはシュンとハルカだけがいればいいと思っていた。けれどその時はっきりした。


わたし、ハルカのことが、きっと恋愛としてすきなのだ。