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6月が近づくにつれ、日差しはさらに強くなっている。
私は裸足になった素足にこれでもかというほど日焼け止めを塗りたくって、1週間ぶりに渋々体操服に着替えてプールサイドへと降りたった。放課後とはいえまだ日は出ている。
私がやってきたことにまだ気づいていないスミくんはすでにホースで水を流している。恐る恐る近づくと、わざとらしく不服そうな顔を見せた。でも今朝ほど怒っていないみたいだ。表情を見ればなんとなくわかる。
「なんだ、こないかと思った」
「来ないようにしたかったんだけど、仕方なく、ね」
そう、これも、シュンのせい。
行かなくていいの、と何度も言うから、来てしまった。
「来たのはいいけど、もう終わる時間なんだけど」
「嫌味っぽいこと言うねえ、スミくん」
「まあいいよ、ナツノが来ないのなんて想定内だし」
「それはちょっと心外」
「どの口が言うんだよ」
う、やっぱりいつもよりは不機嫌みたいだ。私は多少の罪悪感を抱えつつ、でも来てあげたんだからいいじゃない、と謎の上から目線をかましたりして。最低だ。
もーわかったよ、だったら早く終わらせて帰ろう、と珍しくスミくんがめんどくさそうに言うので、私ははーいと返事をした。
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『な、アイス食いたくない?』
スミくんからの提案があったのはプール掃除が終わってすぐ。もちろん一緒に帰る気なんだろうなとは思ったけれど、その提案は不覚にも私の胸を躍らせた。アイス、大好物だ。特に、毎日違うフレーバーが楽しめるようにと願いが込められたアイスチェーン店のミルクソーダ味。
『……奢りならいいよ』
『遅れてきたくせに』
『うっ、』
『はは、ジョーダン、いーよ、奢るから行こ』
アイスにつられてしまったけれど、嬉しそうなスミくんの顔にはこちらまで頰が和む。顔が整っているというのはずるいね。
シュンはもう帰ったかな。
プールを出て、更衣室で体操服から制服に着替える。紺色の半袖セーラー服。中学の時もセーラー服だったから、本当は高校生になったらブレザーがいいなと思っていたんだけどね。
着替えたら下駄箱集合。わかりやすい。
きっと私の方が時間がかかるのをわかっていてそう提案してくれたんだろう。スミくんって気が利くオトコだ。シュンならこうはいかない。(というか、先に帰ってるかも、もしかしたらね)
まだ部活動の時間なので、運動部の掛け声や吹奏楽部の楽器の音を聴きながら廊下をあるく。校内にはもうあんまり人がいない。
スミくんのこと待たせてるかな。
「────行こうよスミ、久しぶりにさー」
あ、と思う。
クラスの下駄箱に着く前に、さっと違う列に身を隠した。スミくんが、いつも一緒にいるクラスメイトたちと話している声が聞こえたからだ。
「だから、今日は先約があるんだって」
「最近付き合い悪いじゃん!」
「じゃあさ、うちらファミレスでベンキョーするから予定終わったらおいでよ」
「あーうん、わかったわかった、行けたらなー」
「うわっ、全然来る気ない!」
男女3〜4人くらいかな。聞き馴染みのある声だ。誰とでも仲のいいスミくんにとったら当たり前のことで、日中、同じクラスのわたしは似たような光景をいつも目にしているけど。
「もーいいからおまえら、早く帰れって」
「ていうか先約ってなに? もしかして彼女?」
「あー、東出さんかー」
うわ、やだな、東出って、わたしの苗字が出てくるの。
同じクラスとはいえ、日中そこまで関わることはない。(というか、スミくんは普通に話しかけてくるけれど、基本わたしは目立ちたくないから避けている)クラスメイトたちも、私たちのやりとりをそこまでいつも気にしているわけじゃないと思う。
「わかってるならもーいいじゃん」
「うわ、本当に東出さん待ち?」
「まあ彼女待ってるなら仕方ないかー」
「ちえ、つまんないのー、絶対埋め合わせしてよねスミ」
「はいはい、また今度行くから」
「またそーやって適当な!」
「仕方ねえよ、スミずっと東出さんのこと気になってたもん、見守ってあげよーぜ」
「ハイハイ、男子は東出さんのことすきだよねー」
「顔は可愛いからなー、な、スミ?」
「もーおまえらうるさい、早く帰って」
あれ、これって、わたし聞いたらまずい話だったかも。
『ずっと東出さんのこと気になってた』って、なにそれ。そんなの、聞いたこともスミくんから感じたことない。
スミくんはそれには否定も肯定もしないで笑っていて、早く帰れーって皆んなを追いやっている。
なにこれ、こんなの、聞かなきゃよかった。心臓が変な音をたてる、こんなの知りたくない。