私がシュンと仲良くなった3年後。運よく同じクラスになった私たちは相変わらずクラスの中で浮いていた。(私たちは、というより、どちらかというと人見知りのシュンに、私以外の友達ができなかった)

とにかく全てのことを低燃費でこなすシュンのことを、私はずっと面白いと思っていた。初めて出来た友達でもあり、一目会った時からその綺麗な瞳が羨ましくて、何かとちょっかいをかけていて。気づけば殆どの時間をシュンと過ごすようになっていた。


小学3年生、春。


人見知りで物静かなシュンと、明るいのにシュン以外と一緒にいることを選択しない異色の私たち2人に、転機が起きる。

4月のクラスオリエンテーションでフルーツバスケットを行うことになったのだけれど、それに乗り気じゃないのはシュンの方だった。みんながせっせと机を教室の半分に寄せて、椅子を丸く配置している中、ひっそりと教室を抜け出していたのだ。

もちろん、私はすぐにそれに気づいて後を追う。いくらシュンが人見知りの人嫌いでも、こういった学校行事を自らサボるなんてことは早々ない。


『シュン』


私が声をかけると、驚いたように振り向いて、でもどこか安堵したように歩き直した。私を無視して階段下まで歩いていくと、その下に身を潜める。ここならバレないと思ったんだろう。


『もう、なんで突然いなくなるの』
『別に、やりたくなかったから』
『珍しいね、シュンがサボるなんて。そんなに嫌だった? フルーツバスケット』
『別に、嫌なわけじゃないけど、苦手なだけ』


フルーツバスケット。ひとりひとりにフルーツの名前が与えられる。椅子でぐるりと円を囲んで、余った1人は中心に立つ。


『そうなの? なんで?』
『1人だけ仲間外れみたいだから』


至って真剣にそう答えたシュンに、私は思わず笑ってしまった。笑う私をみて、シュンは怪訝そうに顔を顰める。

そうだ、シュンって、本当はすごく優しい。

下校中に見つけた居場所のない子猫にミルクをあげたり、踏まれて潰れたタンポポを土に埋めたり、転んだ私に黙って絆創膏を差し出したり。わかりやすく、手を差し伸べる。シュンのそういう、不器用だけれど心優しいところが、いいなあと思う。


『ねえ、シュン、わたしシュンに会えてよかったなあ』
『大袈裟』
『そんなことないよ、シュンがいれば他の友達なんていなくてもいい』
『なにそれ、へんだよ』


その声に、私はまた笑う。シュンも満更でもないような顔をしていた。変でもいいじゃないか、出会った時からずっと、シュンのこの優しい瞳がいいなと思っていたのだから。


『───ねえ、2人ともここで何してるの?』


ふと。授業中の階段下、誰もやってこないと思っていたその場所に上から声が落ちてきて、私たちは同時に声の方へと振り返った。

振り返った先、とても綺麗な黒髪ストレートの女の子が、不思議そうに私たちを見ていた。幼い私でも、純粋にすごく綺麗な顔立ちをしている女の子だと、そう思った。


『フルーツバスケット抜け出したんでしょ? 私も混ぜて!』


にこりと笑った美少女と、美少女越しに見えた窓の外の綺麗な桜たち。


『なんで? 私たちフルーツバスケットが苦手だから抜けてきたんだよ』
『うん、私も同じなの、だから混ぜて欲しいな』
『どうして苦手なの?』
『だって、ひとりだけ余るなんて、仲間外れみたいで可哀想でしょ?』


あ、シュンと、同じことを言う。

今でも忘れられない。

屈託なく笑う美少年に、横を見れば、普段人とほとんど関わることのないシュンが、真っ直ぐ彼女を見つめていたこと。今思えばあの時、シュンは突然現れた自分と同じ感性を持つ彼女に、思わず、見惚れていたのだろう。



『───わたしハルカっていうの!』



それが、私たち親友3人が会話をした初めての日の記憶だ。