◇
どんなに眠くても、学生の朝は必ずやってきてしまう。
スマホのアラームで目を覚ます。シュンより早く布団を出て洗面で身支度を整えた。男子は起きてから家を出るまでの時間、いったい平均どれくらいかかるのだろう。女子は最低でも1時間はいるんじゃない? わたしだけかな。
わたしが髪の毛を整えて制服を着たところでやっとシュンが起きてきた。昨日は長々と話していた気がするけれど、ふたりともいつの間にか寝てしまっていたのだ。
「おはよ、シュン」
「あー、おはよ、」
低血圧だな。不機嫌そうだ。
「男子はいいね、時間かからなくて」
「嫌味?」
「違うけどー」
「別にそのままでいいのに」
「うわ、そーいうの、他の女の子の前で言っちゃダメだよ」
「そういうもの?」
「バカだなあ、シュンは」
「女の子は見た目を気にしすぎなんだよ」
「女の子が気にしすぎなのか、男の子が気にしすぎなのか、どっちなんだろうね」
「なんだそれ」
「シュンにはわからない話」
なんて、嫌味を言うのはやめだ、やめ。
お気に入りの栗色ロングヘア。寝癖を綺麗にストレートにして、さらにそこからポニーテールにくくる。前髪は空気を入れてワンカール。ビューラーとリップで軽く顔を整える。スクールメイクは基本最低限。
スカートは短い方がいい。シャツのボタンはひとつ開けが丁度いい。靴下は長すぎず短すぎない絶妙なラインがある。スクールバックにつける大きなキーホルダーはご愛嬌。
決まりがあるの、女の子って、ルールがあるんだよ。知らないでしょう、知ることもないでしょう。
:
.
お父さんが用意してくれた朝ごはんを急いで食べて、2人で「行ってきますー」と玄関を出た。誰かと朝一緒に家を出るなんて変な感覚だ。
シュンの家は、わたしの家と学校の間にあるので、途中で寄ってカッターシャツを取り替えた。
シュンは団地のアパートでお母さんと二人暮らしをしている。深く聞いたことはないけれど、少し、苦労をしている家系なんだと思う。シュンがいつも使っているカメラはお父さんがくれたものらしいけれど、そのお父さんといまだに面識があるのかどうかさえ聞くことができない。長年ずっと一緒にいる幼馴染とはいえ、踏み込めていないことだってる。お互いに、だけれど。
「シュン、明日は何するの?」
明日は土曜日だ。
「さあ、なんだろうね」
「図書館いこーよー、3年になってからの物理訳わかんないの」
「物理はナツノの方が得意じゃなかった?」
「いや、全般シュンには負けるよ」
「ていうか、受験で使うの? 物理」
「んー、まだ決めてないけど……」
「そろそろ考えなよ、志望校」
「大学行かなきゃダメかな?」
「親が悲しむよ」
「まあ、そーだよねー」
高校3年生。受験生。私たちは、もう自分の将来について考えなくちゃいけない年齢になってしまった。
学校の門を抜けて、もうすぐ下駄箱に着くところで、ピコンとスマホにメッセージが届く。
『今日もお昼一緒に食べよ』
簡素なメッセージ、スミくんからだ。
普通の恋人と呼ばれるひとたちがどれくらいの頻度で連絡をとるのかわからないけれど、私は結構淡白な方だと思う。というか、きっとそう。普段密なやりとりはしていない。何か用事があれば相手から連絡が来る。その程度。頻度はこれくらいがちょうどいい。
「じゃ、昨日はありがとね、ナツノ」
「うん、明日図書館行くの考えといてねー!」
下駄箱に着くと、違うクラスのシュンとは手を振って別れる。毎朝ではないけれど、朝の投稿をするときはお決まりだ。
どんなに眠くても、学生の朝は必ずやってきてしまう。
スマホのアラームで目を覚ます。シュンより早く布団を出て洗面で身支度を整えた。男子は起きてから家を出るまでの時間、いったい平均どれくらいかかるのだろう。女子は最低でも1時間はいるんじゃない? わたしだけかな。
わたしが髪の毛を整えて制服を着たところでやっとシュンが起きてきた。昨日は長々と話していた気がするけれど、ふたりともいつの間にか寝てしまっていたのだ。
「おはよ、シュン」
「あー、おはよ、」
低血圧だな。不機嫌そうだ。
「男子はいいね、時間かからなくて」
「嫌味?」
「違うけどー」
「別にそのままでいいのに」
「うわ、そーいうの、他の女の子の前で言っちゃダメだよ」
「そういうもの?」
「バカだなあ、シュンは」
「女の子は見た目を気にしすぎなんだよ」
「女の子が気にしすぎなのか、男の子が気にしすぎなのか、どっちなんだろうね」
「なんだそれ」
「シュンにはわからない話」
なんて、嫌味を言うのはやめだ、やめ。
お気に入りの栗色ロングヘア。寝癖を綺麗にストレートにして、さらにそこからポニーテールにくくる。前髪は空気を入れてワンカール。ビューラーとリップで軽く顔を整える。スクールメイクは基本最低限。
スカートは短い方がいい。シャツのボタンはひとつ開けが丁度いい。靴下は長すぎず短すぎない絶妙なラインがある。スクールバックにつける大きなキーホルダーはご愛嬌。
決まりがあるの、女の子って、ルールがあるんだよ。知らないでしょう、知ることもないでしょう。
:
.
お父さんが用意してくれた朝ごはんを急いで食べて、2人で「行ってきますー」と玄関を出た。誰かと朝一緒に家を出るなんて変な感覚だ。
シュンの家は、わたしの家と学校の間にあるので、途中で寄ってカッターシャツを取り替えた。
シュンは団地のアパートでお母さんと二人暮らしをしている。深く聞いたことはないけれど、少し、苦労をしている家系なんだと思う。シュンがいつも使っているカメラはお父さんがくれたものらしいけれど、そのお父さんといまだに面識があるのかどうかさえ聞くことができない。長年ずっと一緒にいる幼馴染とはいえ、踏み込めていないことだってる。お互いに、だけれど。
「シュン、明日は何するの?」
明日は土曜日だ。
「さあ、なんだろうね」
「図書館いこーよー、3年になってからの物理訳わかんないの」
「物理はナツノの方が得意じゃなかった?」
「いや、全般シュンには負けるよ」
「ていうか、受験で使うの? 物理」
「んー、まだ決めてないけど……」
「そろそろ考えなよ、志望校」
「大学行かなきゃダメかな?」
「親が悲しむよ」
「まあ、そーだよねー」
高校3年生。受験生。私たちは、もう自分の将来について考えなくちゃいけない年齢になってしまった。
学校の門を抜けて、もうすぐ下駄箱に着くところで、ピコンとスマホにメッセージが届く。
『今日もお昼一緒に食べよ』
簡素なメッセージ、スミくんからだ。
普通の恋人と呼ばれるひとたちがどれくらいの頻度で連絡をとるのかわからないけれど、私は結構淡白な方だと思う。というか、きっとそう。普段密なやりとりはしていない。何か用事があれば相手から連絡が来る。その程度。頻度はこれくらいがちょうどいい。
「じゃ、昨日はありがとね、ナツノ」
「うん、明日図書館行くの考えといてねー!」
下駄箱に着くと、違うクラスのシュンとは手を振って別れる。毎朝ではないけれど、朝の投稿をするときはお決まりだ。