「ダメだよ」

「え?」

「つばきには毒があるから。それに触ったらおまえ死ぬよ」

「そうなのか……?ごめん……」

「はは。本気にした?うそうそ、からかっただけ。ぼくはつばきーーおまえが触ろうとしてた花と同じ名前だよ」

「おれはーー」


後でわかったことだが、つばきには毒なんてないーーましてや触ったら死ぬなんてありえない。
今思えばそんな危ない花なら、街路樹とか神社にあるなんて変だよな。


子供は何でも信じる。
少なくとも自分はそんな子供だった、誰彼の言葉でも信じて、嘘だとわかった時のショックは大人には到底理解できないだろう。


あれから一度も、あの日の記憶は思い出すこともなかったのに。


なんで今頃になってこんなことを思い出すんだ……。


教室の窓からみえる朱い花弁は不気味に思えた。