那由多が私と、私が那由多と、共通の望みを伝え合ってから、私は那由多にもう少し近付いてしまうようになった。心もそうだけれど、それ以外にも。
那由多も変わった。死神らしくなくなってしまった。それが嬉しくもあり、心配にもなる。
死神としてのアイデンティティの崩壊は、けれど那由多を消しはしなかった。むしろ、人の死を好んでいたときよりも、表情は凪いでいる。林檎を剥いてくれた夜の風よりももっと。それはとても人間らしく。
死を、むやみやたらと纏わりつかせなくなった那由多は本来の優しさが前面に出てきて、表情こそまだ豊かではないけれど、とても素直でいたいけで。もういっそ無邪気にさえ思える。私の汚れた心が平謝りしてしまうほどには。
いたいけな那由多は、私に容易に触れてくる。触れたい触れたくないの欲ではなく、私を心配して、私のおでこに那由多の手が伸びて。そうして触れることがまるで自然の摂理みたいに、欲のない仕草で一連の行動をする。会う度にその時間は増えていく。
触れられたことに過剰に反応する私は、それをひた隠しにしながら、黒い腹なものだからひたすら享受をし続けていた。それだけでは足りなくて寂しいときは、手を繋いでもらっている始末だ。
「那由多は何か欲しいものはないの?」
「うん? ああ――ない、かもな。こうして清香といられるだけでいい。ってことは、それが俺の欲しいものなのかもしれない」
「っ」
「どうした?」
「……いえ。なにも……」
「なんだそれ」
静かに、静かに那由多は私の病室の椅子に座り続ける。それだけで、とても満ちていてくれるのだろうか。那由多も私と同じように感じてくれているなら嬉しい。
人間らしくなってしまった那由多は相変わらず全身黒の死神装束で、まだ暑くないと言う。
人間らしくなった那由多に、彩りを添えたくなった。もっとそうなれるように。
黒い服にも合うような、夜に紛れすぎず、目立ちすぎることもなく、那由多に似合あうような……。
眞子に相談してみれば、勝手にしたらいいと見放されそうになったけれど結局相談にのってもらえた。
どうせなら、那由多がいつか自棄になったり、どうしようもない崩壊が起きて立っていられなくなり地面に手をついて倒れてしまうようなことがあってしまったとき、その彩りが目につき、僅かでも助けになれるようなものがいい。
どうか那由多が、今よりもっと人間らしくなっても、消えないでいてくれますように。
「那由多」
「なんだ」
「私は、那由多と一緒に、ずっとこんな日が続けばいいなって思う」
「ああ。……俺も」
「本当に?」
「本当に、心から思うよ」