「お前さては自分が計画してるバルーンリリースに風船どれくらい使いたいか、頭ん中でまとまってないな」
「ま、まとまってるし!に、にゃくから…500」
「範囲広!!それだよそれ!二、三百って百単位で違ったら万一店頭で準備出来ても発注こまんだろーが!だからさっきからまともに相手にしてくれねーんだよ大人が」
ぶちぶち言いながら辺りを見回した日野は、今一度「久美子ちゃーん」と久美子ちゃんを召喚して紙とペンを手に入れた。手懐けんのはやくね、と目を丸くする私に反し、あぐらをかいてスケッチブックにおおよそのこの企画に要する人材、風船の数、そして5月末、文化祭イベント当日の気候と風向きやら何やらをざっと紙に書き出した。
「計算はや」
「小学校んときそろばん行ってた」
そういや日野は理系だった。私は文系で、だからめちゃくちゃ計算の早い日野に基本の算数は任せて漢字の読めない彼を手助けしてやるのだ。人の名前すら目を細めてるからな。興味がないだけかもだけど。
で、ざっと私の考えていた企画にかかるお金をスケッチブックに書いた日野は私にそれをじゃん、と見せる。うん。まぁそんなとこだろうと。そこはまぁ予想の範囲内っすよ、と笑ってたらスケッチブックをひとめくりした瞬間目が飛び出そうになった。嘘だろまじか。ちょっと大金すぎて自主規制。
「どう安く見積もってもこうなる。1ページ目のは所詮あくまでかかる最低価格、で、きみがやろうとしてることっつーか主に風船代で本社は倒産レベルの赤字です」
「わかりました。解散!」
「ブラック企業か」
経費削減のために人員をやむなくリストラする社長ってこんな感じなのか。社会の荒波。うぐうう、とホームランバーを食べ終えて棒を咥えたまま頭を抱える私に、隣からスケッチブックを閉じた日野のため息が聞こえる。
「諦めるか?」
「やだ」
「多香」
「どうしてもやりたい理由があるんだ」
きゅ、とスカートを両手で握って皺を作る私に、それ以上言及しない日野がくしゃ、とチョコバットの包装紙を握り潰す。立ち上がって「いくか」って言う日野の言葉を合図に私も立ち上がると、「あー待って!」と店の中から声がした。