「れっつごーごー」

「ごーごーは良いんだけど多香さん、ナビしてくれます」

「すみません、よくわかりません」

「それSiri」


 漫才やってんじゃねんだよ、と肘で鳩尾を押されてぐえっとカエルみたいな声が出る。とんだDV彼氏だ。わからんちーん、と日野の肩に顎を置いてうだうだしていると、振り向いた日野に目と鼻の先で問われた。睫毛長い。


「薮内とジオラマ作ったんだ、資材調達の手段とかヘリウムガスの入手方法とか考えたんだろ?まとめたやつ見せてよ」

「………ぁ」

「………もしや薮内が持ってる?」

「………ごめちょ」

「ぽんこつ」


 さーせん後ろで走りますって言ったら乗ってろ大根足、って言われて横腹を蹴った。あわや自転車ごと倒れかけた日野を睨んでからまた後ろに跨って、自転車の荷台を掴む。


「しゃーねーからもう常套手段でいくか」

「じょうとうしゅだん?」

「おれらにはリーサルウェポンがあるからな」


 思い当たる節あんだろって問われて、あぁ、と声を上げる。そうと決まればとコンクリートをローファーで蹴り上げた。


 ❀


「ねーよ」

「「ねーのかよ」」


 春の午後、絶賛お仕事中の大澤工具店のてっさんは汗ばんでいて、その小麦色の肌はなんかもう、言葉にならないクオリティだった。上腕二頭筋万歳、と擦り寄ろうとする私の首根っこを日野が鷲掴む。


「逆になんで工具店に風船あると思ったんだよ。普通に考えたらわかんだろ。つーかお前ら学校は」

「抜け出してきちゃった✩」

「やんちゃか」


 てへ、とVサインを目元に掲げる日野とてへぺろぶりっ子ポーズをしたらぴしゃんと言い切られてしまった。